まさに“中華の地方フュージョン”。中国料理の雄・山口祐介シェフが表現する最先端の味を、麻布台ヒルズで
料理の提供スタイルは昔ながらでも、料理はコンテンポラリー。伝統の味をきちんと継承しつつ、軽妙かつ繊細なテイストが「虎景軒」の料理の特徴だろうか。加えて、ジャヌのテーマでもある“ウェルネス”もメニューに表れている。
「蒸し鶏の冷菜 上海風葱と生姜の翡翠ソース」もその一つ。従来ならば皮つきの腿肉を使うところだが、同店のそれは鶏胸肉のみとグッとヘルシー。火入れも絶妙なしっとりと柔らかい胸肉のうまみを引き立てているのが、葱の香りと色を移した色鮮やかな翡翠色の葱油。そしてシブレットや生姜の薬味たちだ。この葱油も、中華で一般的なサラダ油や白絞油ではなく、ピュアオリーブオイルを使うなど、健康に配慮する姿勢がうかがえよう。
中国の古典料理をこよなく愛し、造詣の深い山口シェフ。「虎景軒」の料理は、そんな山口シェフなればこそのアレンジが一番の魅力だろう。先の蒸し鶏もそうだが、確かな知見に裏打ちされた料理は、創意的であっても、中国料理の軸から決して外れていない。というのも、古典を基本とし、それを現代に照らし合わせ、山口シェフ自身がよりおいしいと思う形にリミックスしているからだ。そのいい例が「虎景軒スペシャリティ 黒毛和牛フィレ肉ペンジャ産黒胡椒炒め 黒にんにくソース」だろう。
「広東料理でおなじみの牛肉の黒胡椒炒めですが、牛肉の醍醐味をもっと前面に打ち出したくて通常のようなスライスではなくサイコロ状にカットしました。そして、サーロインでは重いと思い、シャトーブリアンにしてみたんです」と山口シェフ。そのシャトーブリアンも、ジューサーにかけた玉ねぎで半日マリネして繊維を柔らかくするなど隠れた一手間もおいしさのポイント。
また、中華にありがちな“片栗粉のとろみ”はつけず、バターや醤油、ニンニク、エシャロットで炒めてソースを乳化させ、自然なとろみをつけ、香り高いベンジャ産黒胡椒でアクセントをつけている。ソースのキレも良く、カリッと香ばしい表面と中の柔らかな肉質とのバランスの良さには、思わず笑みが溢れる。調味料にマスキングされることのない和牛ならではのうまみが、噛み締めるほどに舌に広がる。シグネチャーディッシュにふさわしい逸品だろう。