在職老齢年金のルール変更で変わる“年金が増える繰り下げ受給”の考え方 1階部分だけにするか、2階部分だけか、全部繰り下げるか、年金博士が解説
5年に一度の年金改正がやってくる。今回、大きなポイントとなるのは「在職老齢年金」のルール変更だ。在職老齢年金は、働きながら年金を受給する人について、給料と年金の合計が一定額を超えると年金がカットされる仕組み。現在、「月給+年金月額」が「50万円」を超えると超えた分の半額が年金から差し引かれるが、改正ではその基準が緩和され、「62万円」にすることが検討されている。【年金改正で知るべき「繰り上げ」「繰り下げ」タイミング・第2回】
今回の改正で、「何歳から年金を受け取るべきか」の答えも大きく変わるというのは、年金博士こと社会保険労務士の北村庄吾氏だ。 「『年金カットされるくらいなら、受給開始を遅らせよう』と考えて繰り下げを選択しても、支給停止されるはずだった分の年金は割り増しの対象になりません。だから給料や年金が多い層には繰り下げのメリットが小さかった。 しかし、今回の年金改正で在職老齢年金のルールが見直され、支給カットになる基準額が引き上げられる方向です。繰り下げを選んだ時に割り増しのメリットをフルに受けられる層が増えることになります」 「繰り下げ」には、受け取り始める年齢以外にも、様々な選択がある。 まず、元会社員らの年金は「1階部分(基礎年金)だけ繰り下げ」「2階部分(報酬比例)だけ繰り下げ」「全部繰り下げ」の3つから選ぶことができる。 夫婦の年金で考えれば、「夫の年金」「妻の年金」「両方の年金」を繰り下げる選択がある。 「繰り下げで夫婦の年金額を増やしたい場合、金額が大きいほうの年金の繰り下げをベースに組み合わせを考えるのがいいでしょう」(北村氏)
総合的に見て一番メリットが大きいパターン
そこで主要な4パターンの組み合わせで70歳繰り下げをした場合の年齢ごとの「夫婦の年金額」をシミュレーションした(別掲の図)。試算のベースは厚労省のモデル年金(夫は厚生年金、妻は国民年金)の金額だ。 このなかで北村氏が強く推奨するのが「夫の1階部分だけ繰り下げ」(パターンB)だ。 「総合的に見て一番メリットが大きい。加給年金を受け取れるし、在職定時改定があるから夫の年金は受け取りながら増えていきます」 夫婦の年金を見る際の大きなポイントがこの加給年金と在職定時改定だ。 「加給年金」は妻が年下の場合、妻が65歳になるまで夫の厚生年金に年40万8100円が加算される。家族手当にあたる“おまけ年金”だが、夫が厚生年金(2階部分)を繰り下げしている期間は支給されない。 一方の「在職定時改定」は2022年4月に導入された制度で、厚生年金保険料を払いながら働いて年金も受け取る場合、前年に支払った保険料分が翌年の年金額に反映され、働いている間は毎年、年金額(2階部分)が増えていく仕組みだ。 「夫の1階部分だけ繰り下げ」であれば、2階部分は受け取っているから妻が年下なら加給年金はしっかり加算されるうえ、在職定時改定も適用される。年金制度にあるメリットをしっかり受けながら、繰り下げによる割り増しを得られる。 別掲図のパターンBでは、70歳からの年金額は夫婦で65歳受給開始を選んだ場合に比べて年額40万円以上アップする。65歳受給開始の場合、夫婦合計で月額16万2000円だったのが「夫の1階部分だけ繰り下げ」で26万4000円になる。 妻が年上など加給年金の支給対象ではない場合、「夫の2階部分だけ繰り下げ」(パターンA)という選択もある。金額が大きな2階部分が割り増しされることから、70歳からの年金額はパターンBより増える(夫婦で月額27万円)。