在職老齢年金のルール変更で変わる“年金が増える繰り下げ受給”の考え方 1階部分だけにするか、2階部分だけか、全部繰り下げるか、年金博士が解説
最も金額が大きくなる組み合わせ
総務省の家計調査年報(2023年)によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の月の生活費(消費支出と税・社会保険料)は平均約28万2000円だ。 「完全リタイアに備えて70歳での年金をもっと増やしたい」と考えている人であれば、最も金額が大きくなる組み合わせが「夫婦の年金全部繰り下げ」(パターンD)だ。別掲シミュレーションの通り、夫婦の年金額は65歳受給の月額約23万円から32万7000円へ跳ね上がる。 「夫婦ともに繰り下げをするのは年金の割り増しを最大にできるという面で理想型ではありますが、65歳から70歳までの年金空白の5年間は給料だけで生活する必要があります。それでも大丈夫という収入がない人には向きません」(北村氏) 高年齢者雇用安定法で企業は70歳までの就業機会確保が努力義務とされ、60代後半男性の就業率は61.6%に上昇。だが、60代前半男性の平均賃金が約33.4万円なのに対して、60代後半男性は約29.3万円と下がる(賃金構造基本統計調査)。 給料だけで生活できるか少し不安はあるが、それでもできるだけ年金を増やしたい人には、「夫の年金だけ全部繰り下げ」(パターンC)という選択がある。妻の年金を65歳から受給することで、夫の給料だけで賄えないぶんを補填するやり方だ。 また、妻も厚生年金で2階部分を受給する場合、繰り下げの組み合わせパターンはさらに増える。 たとえばパターンCに、65歳からの妻の2階部分の年金受給が加われば、65歳以降の生活費の不安を減じながら、夫の将来の年金額を増やしていくプランが可能になる。
繰り下げの注意点
ただし、繰り下げには注意点もある。北村氏のアドバイスだ。 「繰り下げには加給年金がもらえなくなったり、遺族年金は割り増しの対象にならないといった問題があります。加えて注意すべきは、税金と社会保険料が高くなること。働きながら年金を受給する人は、給料には『給与所得控除』、年金収入には『公的年金等控除』を受けられるという税制上の二重のメリットがある。だから給料40万円の人より、給料と年金の合計40万円の人のほうが税金が安くて手取りは多くなる。繰り下げ期間はそのメリットがなくなります」 繰り下げ後に年金を受給してからも、年金額が増える分、税・社会保険料が多く取られる。 「とくに介護保険料がかなり増えるケースが多い。1年繰り下げるごとに年金の支給額面は8.4%割り増しになるが、税・社会保険料が増えるため、実際の手取りは5%増くらいと考えたほうがいいでしょう」(北村氏) ■もっと読む:【夫婦の年金】「繰り上げ受給」をパターン別で図解シミュレーション お勧めできないのは「妻だけ繰り上げ」、年金博士が詳細解説 ※週刊ポスト2025年1月17・24日号