「深刻化する人手不足」でこの国にいったい何が起きているのか…「物価上昇」を読み解く
この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか? 【写真】日本には人が全然足りない…データが示す衝撃の実態 なぜ給料は上がり始めたのか、人手不足の最先端をゆく地方の実態、人件費高騰がインフレを引き起こす、「失われた30年」からの大転換、高齢者も女性もみんな働く時代に…… 話題書『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。 (*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
輸入物価高騰による物価上昇から、人件費高騰がけん引する物価上昇へ
物価とはどのような要因で変動するのだろうか。 物価を説明する考え方にはさまざまなものがあるが、長期的な物価の動向を規定しているのは、生産にあたって発生するコストである。競争市場においては同じようなサービスを提供する企業は多数あることから、過度に高い価格を提示してしまえば顧客の離反にあってしまう。その反対に、過度に安い価格でサービスを提供すれば企業は利益の確保が困難になる。このため、独占企業を除けば、企業が提示する商品の価格は生産に当たって生じるコストに収斂していく。価格というのは、基本的には原材料費や人件費など生産コストに応じて決定されることになるのである。 ここ数年間における短期的な物価上昇は、円安による輸入物価の上昇がけん引している側面が強い(図表1-39)。 為替が円安方向に振れれば、輸入品の日本円ベースでの価格が上昇することから、原材料コストの上昇に直面した企業は財やサービスの価格に転嫁せざるを得ない。実際にドル円レートと輸入物価は連動しており、輸入物価の上昇が全体の消費者物価の上昇に影響を与えていることがわかる。ただし、永遠に円安が進むということがないように、原材料価格の変動は為替や海外要因などその時々の短期的な影響にとどまる側面が強い。 一方で、サービス価格にとって長期的に物価の動向を規定する重要な要因となるのが、サービスを提供する際に発生するコストに相当する賃金である。賃金が持続的に増加していく局面においては、賃金上昇が生産コストの上昇につながり、物価はそれに合わせて上がることになる。 こうした見方をすれば、日本経済がこれまで経験した長期にわたるデフレーションの要因について、その大きな背景の一つに賃金の低迷があったと考えることもできる。労働市場の需給が財・サービス市場の価格にも相当程度影響を与えてきたのである。 そして、このように労働市場との関連で物価の動向を考えてみれば、将来の物価上昇率はこれまでとは異なるものになると予想することができるだろう。つまり、労働力が豊富にあった時代には労働市場の需給のゆるみは、財・サービス市場でのデフレーションにつながっていた。 しかし、人口減少経済においては人手不足が深刻化することで賃金が上昇することから、持続的な賃金上昇が物価の継続的な上昇を引き起こすと予想されるのである。 当然、物価はサービスだけではなく、輸入品の価格が大きな影響力を持つ財も含めたさまざまな品目で構成される。人件費はあくまで企業活動に伴うコストの一部分にすぎない。 しかし、人手不足の深刻化とそれによる賃金上昇が、近年のサービス物価上昇の背景にあることは確かだ。今後も人件費の高騰が日本全体の物価上昇をけん引する形で、緩やかな物価上昇が持続することになるだろう。