「いつでも、なんでも診る」医師が日本にいない訳 「かかりつけ医」がいるのに“たらい回し”の例も
日本は今、地域医療の危機を迎えています。2025年には、団塊の世代が後期高齢者となり、認知症患者も大幅に増えることが予想されています。 このままでは近い将来、患者さんがかかりつけ医を見つけられなくなり、地域医療が崩壊してしまうかもしれません。 『「総合診療かかりつけ医」がこれからの日本の医療に必要だと私は考えます。』の著者、菊池大和医師が現状と課題、真のかかりつけ医の必要性、そして地域医療を守るための方策について伝えています。本稿では、同書から一部を抜粋、編集してお届けします。
■たらい回しにされた患者さん この記事をまとめていた夏のある日曜日、夜6時になる少し前に、90歳の男性が家族に連れられて私のクリニックを訪れました。 1週間前にのどが痛くなり、近くにある耳鼻科を1人で受診したそうです。その耳鼻科で、のどの薬をもらったと言います。 その3日後には、吐き気も出て食欲がなくなったため、前からお世話になっている別の耳鼻科に電話をしました。すると、「食欲がないのでしたら、内科を受診してください」と言われました。
そこで高血圧の治療のために通院している内科に行ったところ、「これで様子を見てください」と吐き気止めを処方されました。 けれども、症状は一向によくなりません。吐き気のために水分も摂れなくなってきました。こうして、一般的なクリニックが休診の日曜日になりました。 男性は高齢の奥様と2人暮らしでしたが、奥様には認知症があります。 困ったときにたらい回しにされた患者さんが来てくれた夜は、近所に住む娘さんや、息子さんのお連れ合いを頼っていました。このときも男性が電話で体調不良を訴えると、2人は心配して駆けつけたそうです。
2人は休日診療所を探し出して、男性を連れて行きました。けれども、その休日診療所でも坐薬の吐き気止めを出されただけでした。 「このような治療でよくなるとは思えない」と考えた2人は、インターネットで休日でも開いている当院を見つけてやってきたのです。 診療室に入ってきた男性はふらついていて、血圧が下がっていました。風邪の症状がきっかけで、脱水状態になっていると考えられました。あと1日でも受診が遅れていたら、命の危険にさらされていた可能性があります。