「いつでも、なんでも診る」医師が日本にいない訳 「かかりつけ医」がいるのに“たらい回し”の例も
点滴で水分補給をすると、症状が落ち着き、本人も「楽になった」と言います。ホッとした様子を見せたご家族と男性は帰宅しました。翌日以降、何度か通ってもらいましたが、5日ほどで元気を取り戻しました。 この方と似たような患者さんが、私のクリニックにはしょっちゅうやって来ます。 ■本当の「かかりつけ医」がいない 読者の皆さんは、このエピソードを読んでどう思ったでしょうか? 「なぜ、そんなことになったのか」と驚いたでしょうか? あるいは「ありそうなことだけど、結果オーライでよかった」と思ったでしょうか。
いずれにせよ、これが日本の地域医療の現状です。困っている患者さんがクリニックをいくつ回っても、適切な治療を受けられない場合があるのです。 世界トップクラスの医療技術を持つといわれる日本ですが、それは病院での医療です。一般の人たちが「どうも体調がすぐれないな」と思ったときにまずかかる初期診療の現場で、適切な医療が提供されているとは言いがたいのです。 「初期診療の現場で、適切な医療が提供されない」ということが起きる根本的な原因は、「本当のかかりつけ医がいない」からだと私は考えています。
この90歳の男性を診察した4人の医師には、「自分はこの男性のかかりつけ医だ」という意識がなかったと思われます。男性が「かかりつけ医」だと信じていた内科の医師にも、おそらく患者さんが期待していたほど「大事なうちの患者さんだ」という気持ちはなかったのでしょう。そして、患者さんを危険な状態に追い込むことになったのです。 日本には本当の「かかりつけ医」がいない。 そう実感させたのは、2020年に世界中を席捲した新型コロナウイルスです。「かかりつけ医だと思っていたのに、診療を拒否された」というケースが全国で相次ぎました。
日本には欧米のような「家庭医制度」がありません。患者さんの意志で、複数のクリニックに行くことも自由です。 そのため、医師にとっても「治療の途中なのに患者さんが来なくなってしまう」ことが当たり前のようにあり、「来てくれた患者さんを責任を持って診る」というマインドが稀薄になっているのだと思われます。 医師の能力の問題ではなく、日本の医療のあり方が「医師としての根本的な責任感」のようなものを削いでいるような気がします。