愛知・名古屋中心部に立つ大きな心の癒し ── 「御園のタブノキ」が立つ理由
河村たかし名古屋市長は昨年12月26日の記者会見で、名古屋市天白区の相生山緑地を分断する道路の計画廃止を表明。ヒメボタルの生息地として知られる貴重な自然環境を残す選択をした。建設推進の意見もあるため公園整備が順調に進むかは不透明だが、都市化が進む名古屋において、「緑化」や「自然との共存」は悩ましい問題の一つと言えるだろう。今回は同市栄の中心部、伏見通りあるタブノキにスポットを当ててみる。
道幅の広い名古屋を象徴する大通りに突然現れる巨木
都市に残る巨木は、我々に都市化と緑化の共存について考えるきっかけを与えてくれる。同市内にもいくつか残されており、道をさえぎるように伸びる大木を見ると、何かを訴えかけているようにも感じられる。 同市中区と熱田区を結び南北に走る「伏見通」は、道幅が広い名古屋を象徴するような片側5車線の通りである。車道とともに、歩道と自転車専用道、所々に駐輪場も設けられている。 地下鉄伏見駅から伏見通の東側を南進すると、突然、目の前に巨木が現れる。これが「御園のタブノキ」だ。樹齢250年以上、樹高10メートル、幹周3.8メートル。風害などにより折損し再生したため、一般的なタブノキよりは小さいが、歩道には他の樹木が見られないためその迫力は十分だ。
自転車道整備のため一斉伐採。唯一残ったご神木
かつて伏見通の歩道には街路樹があったが、2008年に自転車道や駐輪場を設置するために伐採。「御園のタブノキ」はご神木であったため残った。名古屋市は全国屈指の放置自転車数で知られる。 同市によると、平成24年度には自転車等が鉄道駅周辺などを中心に全市で約1万7700台放置されており、通行の障害となったり景観を損ねている状況が見受けられるという。 そのためかねてから「自転車駐車場の整備」「自転車駐車場の有料化の推進」「自転車等放置禁止区域の指定及び撤去」「自転車利用者への指導・啓発」の4つの施策を推進。自転車駐車場については立地条件や莫大な費用など課題が多いため、民間活力の導入や歩道上での許可自転車駐車場などの拡充を必要としている。 10年近く前からタブノキのすぐ近くで働く自営業の男性は「伏見通の整備により自転車では走りやすくなったが、景色が変わったのは寂しい」と話す。またタブノキにスマートフォンのカメラを向けていた名古屋市の主婦は「栄のほうはよく歩くが、こんな木があることは立て札を見て初めて知った。カメラでは収まりきらないぐらい大きいですね」と驚く。