緊迫する北朝鮮情勢(上)アメリカはどこまで「本気」なのか?
空爆で「北の核」を除去できるか?
では、空爆という手段によって、北朝鮮の核及びミサイル開発能力の除去は可能でしょうか? 答えはNOです。 北朝鮮は、核についてもミサイルについても、かなりの時間をかけ、技術を積み上げてきました。関連施設を空爆して破壊しても、蓄積された技術は消えません。製造設備が破壊されれば、開発のスピードは一時的に遅くなるでしょう。しかし、技術は失われません。北朝鮮の技術まで消し去ろうとするなら、恐らく数百人を越える技術者を殺害、もしくは拘束し、データを奪うか消去する必要があります。 2012年に、イスラエルの工作機関モサドが、イラン人核科学者を暗殺したと噂された事があります。技術の蓄積が不十分であれば、キーとなる科学者を暗殺することで、開発能力に大きな影響を与えることができるのです。 しかし、北朝鮮は、既に数度の核実験を行い、一人や二人の科学者を暗殺したところで、開発を止めることはできません。 つまり、アメリカの目的が、北朝鮮による核及びミサイル開発の鈍化から、除去に変わったのならば、目標は、核やミサイル施設だけではなく、数百人を越える技術者やドキュメントとなっているはずです。彼らが一堂に会しているなら、空爆という手段によって目標を殺害し、目的が達成できます。しかし、当然そんなことはありません。関連施設を空爆すれば一部は死亡するでしょうが、ほとんどは生き延びるはずです。 特殊部隊が侵入し、これら技術者を殺害あるいは拘束することも考えられますが、10人程度ならあり得ても、数百人では不可能です。アメリカは世界最強の特殊部隊を保有していますが、技術者の所在情報がなければ、特殊部隊を投入することができません。そして北朝鮮の場合、人物の所在情報など、ヒューミント(人的情報収集)によらなければつかむことのできない情報は、極めて限られているのが実情です。 結果的に、アメリカ(トランプ大統領)の目的が、核及びミサイル開発能力の除去になったのであれば、地上戦によって北朝鮮を制圧するしかないのです。 さもなくば核を使用し、北朝鮮に壊滅的ダメージを与える必要がありますが、さすがにこの選択はできないでしょう。トランプ大統領も21世紀最大の虐殺者とは呼ばれたくはないはずです。