春の珍事か実力か…なぜサガン鳥栖は3連勝の開幕旋風を巻き起こすことができているのか?
中野や樋口だけではない。アンカーではプロになって3年目の19歳、松岡大起が群を抜く運動量で攻守両面において大きな存在感を放ち、同じく19歳のMF本田風智は途中出場した6日の浦和レッズ戦で、力強いドリブル突破から放ったシュートのこぼれ球が山下の先制点に結びついている。 「ベンチから見ていて積極的にシュートを打つ場面があまりなかったので、自分が入って流れを変えたいと思っていた。先発で出場して早くゴールを決めて、チームにもっと大きな刺激を与えたい」 浦和戦後に本田が残した言葉こそが、樋口が指摘した「よりアグレッシブに――」であり、アカデミー出身選手を含めた若手が下から強烈に突き上げ、オフに主力が抜けた穴を補ってあまりある活躍を演じている証となる。鳥栖でプレーした2011シーズン限りで引退し、鳥栖のアカデミーで指導者の道を歩んできた金監督の手腕を含めて、10年近くにわたる先行投資が結果に反映され始めている。 開幕から3試合で何かを言うにはもちろんまだ早いし、3勝のうち2つは未勝利と調子が上がらない湘南と仙台からあげたものだ。好調ぶりがクローズアップされれば一転して研究される、勝負の世界の掟を理解した上で、金監督は「出来すぎと言っていいぐらい、いまは調子がいい」とこう続ける。 「足元をすくわれる、という言い方はおかしいな。僕たちはチャレンジャーだし、まだ何も勝ち得ていないし、いつかは負ける試合も訪れる。ただ、負けたからといって何かが変わるわけでもないし、逆に勝っているときには見えなかったものも表面化する。そのときにもう一回前進していくために、一戦一戦をしっかりと、驕ることなく戦っていく姿勢をベースにすえていきたい」 たとえるならば、等身大の戦いを貫き通している、というべきか。相手が嫌がる前線からのプレスを仕掛け続ける、先発の平均年齢が24歳代の選手たちに、鳥栖で育まれてきた指揮官の知見が融合された愚直かつ武骨な軍団は、14日の次節でスペインの知将ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督が就任し、積極的な補強にも成功した清水エスパルスのホーム、IAIスタジアム日本平に乗り込む。 (文責・藤江直人/スポーツライター)