春の珍事か実力か…なぜサガン鳥栖は3連勝の開幕旋風を巻き起こすことができているのか?
昨シーズンに守備の要として代役のきかない存在感を放った、ブラジル出身のDFエドゥアルドも残留したことで、キーパーも含めて強固な守備網が誕生した。後方に信頼を寄せられるからこそ、前線から積極果敢にプレッシャーをかけられる好循環が生まれる。ジェフ千葉から加入し、初めて臨むJ1の舞台ですでに3ゴールをあげている24歳のFW山下敬大が言葉を弾ませる。 「守備の部分ではフォワードが前からもっとけん制をかけようとか、ウイングバックがもっと高い位置で守備をしようとか、試合前だけでなく試合中も細かく話し合っています」 J1で唯一、無失点を継続している今シーズンの被シュート数も「20」で、3試合以上を戦ったチームのなかでは名古屋に次いで2番目に少ない。そして、堅守の源泉となっている3バックの左で全3試合に先発し、湘南ベルマーレに1-0で勝利した開幕戦後には「3バックのなかで一番よかった」と金監督が称賛した、17歳の中野伸哉が鳥栖の好調ぶりを象徴するもうひとつの要因となる。 高校2年生の中野はサガン鳥栖U-18所属の2種登録選手で、昨シーズンもJ1リーグ戦で14試合に出場している。そして、鳥栖は初めてJ1へ昇格した2012シーズンから、サガン鳥栖U-15を含めたアカデミーに先行投資を惜しむことなく継続的な強化を図ってきた。 2017年以降の成績を見れば、サガン鳥栖U-15が日本クラブユース選手権(U-15)を2度、高円宮杯全日本U-15選手権を3度制覇。サガン鳥栖U-18も2017年からプリンスリーグ北九州を3連覇し、日本クラブユース選手権(U-18)で2019年に準優勝、昨年は悲願の初優勝を果たしている。 元スペイン代表のエースストライカー、フェルナンド・トーレスを獲得し、国内外から注目を集めていた2018シーズンに、J2時代から経営を担ってきた竹原稔前社長は鳥栖をこう位置づけていた。 「育成型クラブへの転換を目指しています」 辛抱を重ねながら育成に取り組んできた成果が、今シーズンの鳥栖に所属する8人のアカデミー出身選手と、中野以外にも2人いる2種登録選手となる。サガン鳥栖U-18から鹿屋体育大学を経て2019年に加入し、今シーズンから「10番」を託されている24歳のMF樋口雄太が言う。 「下部組織出身というよりも若い選手が多いので、よりアグレッシブにやれている部分があると思う」