11歳で「3.11」震災被害を受けた神戸のMF郷家友太が決勝ゴールに込めた特別な思い「いいニュースを届けたかった」
2点のリードをわずか3分間で追いつかれた。一気呵成の逆転を狙って、ホームのFC東京がさらに攻勢を強めてくる。苦境に陥ったヴィッセル神戸を乾坤一擲のゴールで救い、劇的な勝利をもたらしたのは10年前に東日本大震災で被災した21歳、MF郷家友太の右足だった。 敵地・味の素スタジアムでFC東京を3-2で撃破した、10日の明治安田生命J1リーグ第3節。登録はミッドフィールダーながら2トップの一角で、開幕から3試合連続で先発を射止めた郷家は、気持ちを震わせながらキックオフを告げる主審のホイッスルを聞いた。 「毎年3月のこの時期になると特別な思いがありますけど、特に今日は試合が(東日本大震災の)前日と重なったので、結果でいいニュースを届けようと思って試合に入りました」 自らの今シーズン初ゴールで神戸に勝利をもたらす、結果のなかでも最高の形をがむしゃらに手繰り寄せたのは後半40分だった。途中出場していたMF佐々木大樹が左サイドからあげたクロスを、FC東京のゲームキャプテン、DF渡辺剛がヘディングでクリアした直後だった。 敵陣の中央で弾んだボールの近くにいたのは、後半10分から途中出場して追撃のゴールを決めていたFWディエゴ・オリヴェイラと、同21分からボランチへポジションを下げていた郷家。もっとも、反応速度は後者が圧倒的に上回り、胸でトラップしながら前への推進力をさらに高めた。 「ボールが空中に浮いているときから、周りがほとんど見えていませんでした。胸でトラップした時点で、あの場面ではシュートを打つことしか考えていなかったので」 瞬く間にオリヴェイラを置き去りにして、アンカーの森重真人が慌てて間合いを詰めてきた直後だった。森重の眼前で右足のアウトサイドに引っかけて放った強烈なシュートは、郷家をして「ちょっと風で曲がってしまって」と言わしめる、予想外の軌道を描きながら右ポストを直撃した。 九死に一生を得たとばかりに、ボールウォッチャーになっていたFC東京の選手たちとは対照的に、郷家はシュートを放った後も足を止めていなかった。左ポスト際へはね返ってきたボールだけを見つめて、FC東京の両センターバック、渡辺とジョアン・オマリの間を一気に駆け抜けていく。 「そのまま止まらずに走って詰めていったらいいところに、また自分のところにこぼれてきたので。あとは流し込むだけでした」