【いま行くべき究極のレストラン】お米の可能性をフレンチの技法で追求「mûrir」
だが、それは平坦な道のりではなかった。周囲の人々はこんな田舎にレストランを作って人が来るのかと反対した。 もっともな話ではあるが、それを渡辺さん夫妻は、白馬にあるアウトドアメーカー・スノーピークが経営するレストランに義父を連れて行ったり、新潟のローカルガストロノミー旅館「里山十帖」や和歌山のガストロノミーイタリアン「ヴィラアイーダ」などの写真を見せたりして説得。ようやくGOサインを獲得したのである。
オープンしたのは昨年10月。コースの価格は7700円とし、飲物を楽しみながら10000円でゆっくりと過ごしてもらうことをコンセプトにした。すべての皿に自社で栽培している糸魚川産コシヒカリ「ひすいの雫」を使い、熱源は薪を使う。 うれしいことに、今年3月には新潟ガストロノミーアワードの「若手シェフ部門30」に選ばれた。新潟ガストロノミーアワードの総合プロデューサーである「里山十帖」のオーナー、岩佐十良さんらが予約をして店を訪れ、料理を食べていろいろ講評してくれた結果だった。
「その中のひとりから、薪焼きはもっと進化できるはず。本場、スペインのバスク州でミシュラン1つ星の薪焼きのレストラン『チスパ』を経営している前田哲郎さんのところに行ったほうがいいとサジェスチョンをいただき、この6月に行ってきました。前田さんの薪の使い方は私のものと違い、とても勉強になりました」
私が料理をいただいたのは、残念ながら渡辺さんがチスパに行く前。そのあとにどう変わったかを比較出来ていないのだが、私が訪れた時は8皿のすべてに米が使われ、雪解けから精米、熟すまでの工程を器で表現し、それを糸魚川周辺の食材がひきたてる。米はソースになったり、焼いたり、稲穂を揚げたりと、表現の仕方にこんな可能性があるものなのかと感嘆した。まさに米を食べる料理である。 最後は窯で炊いた、ふっくらとしたご飯を佃煮で食べ、残ったご飯は焼きおにぎりにした。日本人ならだれもが感激するフィニッシュだ。