小泉今日子×松尾潔「おれの歌を止めるな」声の上げかた、怒りかた
---------- 日本社会の様々な領域で、組織にしがらんだ構造的な腐敗が露わになっている。それに対して、時には直情的に声を荒げて怒りを表現することもあるけれど、どうしたら問題が伝わるか、多様な声を磨く必要もありそう。しなやかに抗議して生きる、その方法を探る──。(前篇/中篇からつづく後篇記事) ---------- 【マンガ】5200万円を相続した家族が青ざめた…税務署からの突然の“お知らせ” 司会・和田靜香 構成・矢内裕子
「左? 私、まっすぐ立ってますけど!」
──昨年は芸能界だけでも、ジャニーズ、宝塚、年末には吉本、もういろいろな問題が出てきました。 松尾 もちろん、それぞれに個別の事情があるので個別に検証すべきなのは大前提ですが、俯瞰したら「どれも形が似てない?」とは思いますよね。組織の上から下へ、逃れようがないところで起きたハラスメントであるわけです。そこには共通する構造的な問題があり、同根の理由があると考えるのが自然。もっともっとズームバックしたら、この国のカタチが見えてくるんじゃないかな。 小泉 こことここがつながって と、絡まりあっていますよね。 松尾 また、物事を絡めていくことに余念がない、それに特化した仕事の人たちもいますからね。 小泉 そう思います。 松尾 正しい声の上げかた、もっと言うと「正しい怒りかた」が必要。僕たちは自分の気持に蓋をすることを教えられてきた世代なのかも知れない。同時に、正しい言葉の選びかたも必要だと思う。 ──松尾さんの本を読んでいると、先ほども言ったように言葉の選びかたが秀逸で美しい。私はどうしても直情的に怒って、「ふざけんな!」って荒っぽくツイートとかしてしまうので。 松尾 いろんな声の上げかたがあっていいんですよ。 小泉 怒りもそうですが、思っていることを言ったり、声を上げることに対して、すごく否定的に取られることが多いですよね。でもこんなおかしい世の中になって、怒らないほうがおかしいと私は思うんですよ。なのに怒っていると、「売れなくなったから左に寄るんだろう」とか書かれたりして、「私、まっすぐ立ってますけど!」と思う(笑)。 声を上げる人をしょんぼりさせて、小さくさせようとする意地悪な空気がいまの日本にはあるんじゃない? でも、私たちはもう50代だし、言い続けるしかない。命をかけてちゃんと立っていたいな、と思うんです。 50代は20代や30代よりは経験があるし、立てるだけのメンタルの強さや心の体力もあるでしょう? 大人は思っていることを言い続けて、そういう姿勢をあとから歩いてくる人に見せないと。松尾さんもそう思って『おれの歌を止めるな』を書いたんじゃない? 松尾 ええ。願わくば声のトーンをいくつか持っていたいですね。ここではちゃんと腹式呼吸で届ける声、あるときにはささやくような声、場合によってはファルセット(裏声)のような声がいいかもしれない。しなやかに、絵筆を選ぶように自分の声を選びたいと思います。どれもが自分の声であるということを示すことも大切だけど。