小泉今日子×松尾潔「おれの歌を止めるな」声の上げかた、怒りかた
過去の私も未来の私も一歩前に出られる
松尾 正義は人の数だけあるし、視座の据えかたでも変わってくる。でもこれからの子どもたちのためにも、僕らの世代が声を上げないといけないと思う。 小泉 マスコミが変わらないとね。いまはデモがあってもTVに流れないでしょ。でも、いろいろな声で、深夜ラジオや歌の力、文章を書いたりして、コンサートで全国を回ると、いっぱい人が来てくれる。「この人たちは怒ってくれる人なのかな」って思います。 松尾 リーダーというと大げさかもしれないけど、いまここにいる人たちや気付いた人がそれぞれの場所に戻った時に、そこで誰かに話すことから変化が始まるんじゃないかな。 小泉 私、自分の時間は縦に流れるだけじゃなく、横にもあると思っているんです。いまの私が勇気を出して前に一歩出ると、過去の私も未来の私も一歩前に出るんじゃないかな。だから自分の時間や過去は変えられるけれど、他人に関わること、歴史は改竄してはだめ。だけどいま、やろうとしているじゃない。 松尾 歴史を改竄するのは本当にいけないことですよね。森友問題で自死された赤木さんの問題にも関わります。 ──小泉さんのお話、いまの自分と一緒に、過去と未来の自分も前に行けるという感覚、いいですねえ。人生のとらえ方が変わる気がします。 小泉 そう感じると、「16歳の私ががんばったから、いまの私はここに立っていられるんだな、ありがとう」みたいな気になるし、「面倒くさいことは先にやっておくからね」という気になって、自分と仲良くできる感じがします。 松尾 今日は小泉さんと久しぶりにお会いしましたが、そのあいだ違うルートで歩いてきたけれど、登ってきたのは同じ山だったんだな、と思うことができました。つないでくださった和田さんにも感謝です。 小泉 今日は松尾さんと音楽じゃない話ができて、「私の歌をうたうための仲間ができた」という気がしました。 松尾 こんな未来が待っているなんて、20代の僕は思ってなかった! (2024年3月15日、東京・下北沢「本屋B&B」にて収録) こいずみ・きょうこ 歌手。俳優。1982年「私の16才」で芸能界デビュー。以降、テレビ、映画、舞台などで活躍。2015年から代表を務める「株式会社明後日」では舞台制作も手がける。また文筆家としても、著書に『黄色いマンション 黒い猫』(スイッチ・パブリッシング、第33回講談社エッセイ賞)『小泉今日子書評集』(中央公論新社)など多数ある。 わだ・しずか 音楽・相撲ライター。音楽評論家の湯川れい子氏のアシスタントを経てフリーに。政治・社会ジャンルでの作品も話題を呼んでいる。著書に『スー女のみかた~相撲ってなんて面白い! 』(シンコ―ミュー ジック)、『音楽に恋をして♪ 評伝・湯川れい子』(朝日新聞出版)、『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)など多数。 やない・ゆうこ ライター。編集者。出版社で書籍編集、文庫の立ち上げに携わり、独立。作家、アーティストへのインタビュー記事のほか、古典芸能、文化、美術、工芸をテーマに執筆する。著書に『落語家と楽しむ男着物』(河出書房新社)、萩尾望都氏との共著『私の少女マンガ講義』(新潮文庫)などがある。 Instagram:yanaiyuko twitter:@yanaiyuko---------- 小泉今日子×松尾潔対論前篇《自分の言葉とノリで、声を上げよう》から読む ----------
小泉 今日子(女優)/松尾 潔(音楽プロデューサー)