小泉今日子×松尾潔「おれの歌を止めるな」声の上げかた、怒りかた
誰かの感情を嘲笑的に見てしまう人
──トーンを使い分けるというのは、いろいろな種類の声を持っていなくてはできませんよね。私は一つしか持っていなくて。 小泉 和田さんの文章は、大きい声で怒っているところと、それをユーモアで回避するところとか、ちゃんといろんな表情があると思うよ。 他にも新聞が取材に来てくれた時はこんな言いかたがいいだろうとか、自分のラジオ番組ならば聴いてくれる一人ひとりに届くから囁くように言うほうが伝わるだろうとか、そういう感覚はありますよね。 松尾 そういう姿勢について、「あの人は媒体によって言いかたを変えてるよね」と言われるかもしれないけれど、それでも遠くまで伝わることのほうが大切な気がします。若い頃は、とにかくエッジが鋭いことを言ってやれという気持ちが勝っていた時期もありましたが、いまは正確に遠くまで届けたいと思うようになりました。 ──声を上げることを私たちはしたいわけだけど、そもそも怒りがない人もいませんか。 小泉 誰かの感情を嘲笑的に見てしまう人って多いんだなと、SNSを見るたびに思いますね。あとは組織のなかで自分の生活や日常が回っているから、社会の問題には触らないほうがいいと、怒りの芽をあらかじめ摘んでいる人もいるんだろうな。 松尾 怒ったうえで、その怒りのエネルギーをベストな方向へ転換していくのが正しいやりかただと思うんです。裏金問題が噴出しているいまの国会を観てくださいよ。「こんな茶番ってひどいな」と怒るほうがヘルシーでしょう。 小泉 確かに複雑な問題もあるけれど、裏金問題などはすごくわかりやすいですからね。私たちは確定申告を細かくやらなきゃいけないのに、政治家はいったいなんなの? って思う。 松尾 そう思った時に外へ出て、誰かと話せばいいんじゃないかな。そのときに一番ふさわしい声のトーンで、一番ふさわしい言葉選びをしたいなあ。 ──『おれの歌を止めるな』というタイトルは、「みんなで一緒に歌おうぜ」という意味なんですか? 松尾 一緒にという意味ではなくて、誰しもが持っているその人だけの歌を歌おう、ってことなんです。タイトルの英訳では「おれの歌」を「My Groove」としています。自分のノリっていうのかな。これが自分だというグルーヴを止めたり変えたりせずに、通していこうよというメッセージです。ネットで僕を中傷してきた人たちの言い分を読むと、内容らしい内容はなくて、とにかく黙らせたいというものが多いんですよ。自分が気に入らないと思った人間が、発言をしていることが気にくわない。 小泉 私も「黙れ」って、よく言われるけれど、「黙るもんか」だよね(笑)。