【大学野球】2つの一塁けん制で勝利に貢献した早大・香西一希 好プレーの背景に大先輩の指導
指揮官は「完璧でした」
【9月29日】東京六大学リーグ戦 早大5-4法大(早大1勝1分) 1点リードの8回表二死一塁。早大・小宮山悟監督は五番手投手に左腕・香西一希(2年・九州国際大付高)を告げた。指揮官が最も信頼を置くリリーバーである。 スーパープレーが飛び出した。代打・吉安遼哉(4年・大阪桐蔭高)の打席で、一塁走者の代走・豊田凌平(1年・鳴門高)を一塁けん制で刺した。さらに、9回表は一死走者なしから途中出場の武川廉(4年・滋賀学園高)に遊撃内野安打を許すが、次打者のときに、またも一塁けん制でアウトに。二死から四球を与えるも、後続を抑え、5対4で逃げ切った。前日1回戦の引き分けからの先勝である。 試合は2点を追う7回裏に、三番・吉納翼(4年・東邦高)が逆転3ラン。今季4号の左の大砲が殊勲者となり、小宮山監督は「見事でした」と称えたが、ディフェンス面では、香西の2つの一塁けん制を勝因に挙げた。 「先に進めたいという相手の逆手に取って、大事な場面でピンチをしのいだ。素晴らしい」 好プレーの背景には、大先輩の指導があった。小宮山監督は、真っ先に感謝を示した。 「3月の沖縄キャンプで(現役時代に左腕だった)矢野さん(暢生、今治西高-早大-日本生命)から(けん制の技術を)伝授してくれて、それで勝ったようなものです。試合後、矢野さんにすぐにお礼のメールをしました」 香西は1年秋のデビューから今春まで13試合、13回2/3無失点も、開幕カードの東大2回戦で、8回から救援して初失点を喫した。 チームは12対1で連勝し、勝ち点1を奪取も「相当、悔しかったようです。一人ベンチで、負けたような顔をしていた」と小宮山監督は明かす。勝ち気、向上心、投球術、そして投げる以外の周辺部分。指揮官が求める資質を、すべて兼ね備えているのが香西だ。 小宮山監督はプロの現役時代に「精密機械」と呼ばれた。球速ではなく、針の穴を通す制球力で、強打者に勝負を挑んだ。開幕前、香西についてこう語っていた。 「あの体(172センチ78キロ)、あのボール(最速135キロもほとんどは120キロ台後半から130キロ台前半)でバッターに立ち向かっていく魅力。力を出そうという気は、さらさらない。『打てるものなら打ってみろ』と。気持ち、です。魂を込めたボールはそんなに打たれない。一球入魂。飛田穂洲先生(早大初代監督)の教え。私自身も飛田先生の薫陶を受けた石井連藏(元早大監督)のイズムを、身をもって実践し、プロで長いこと投げてきた。自分が劣っているという強さを常に考えて、(打者の)力量と技術を見計らって投げることは大事。こちらが考えていることに近い」 ベンチからの全幅の信頼は揺るがない。香西は万全の準備で毎試合、ブルペンで待機する。 文=岡本朋祐
週刊ベースボール