いわゆる多重人格、悪夢、赤ちゃん返り……子どものトラウマのさまざまな現れ方
友だちとトラブルばかり起こしている、大人に対して反抗的、拒食や過食……。こうした「困った子」は、実は本人が困っている子です。過酷な体験で生じた心の傷=「トラウマ」から、問題行動を起こしているのかもしれません。 【漫画】「悪魔の子の証だよ!」新興宗教にハマった母親が娘に言い放った信じ難い一言 わかりにくいのは、なにがあったかを子ども自ら話すことが少ないからです。トラウマは、先の人生に大きな影響を及ぼすことさえあります。ですから周囲は、子どもの回復のためになにができるかを考え、行動していくことが必要です。 そこでこの連載では、『子どものトラウマがよくわかる本』(白川美也子監修、講談社刊)を基にして、当事者はもちろん、子どもにかかわるすべての支援者にも知っておいてほしいことを、全8回にわたってお伝えします。 支援者が子どもや家族をコントロールするのではなく、双方が力を与え合い、この世に生きている幸せを共に感じられる。そんな瞬間を増やすのに役立つヒントをぜひ見つけてください。前回に引き続き、子どものトラウマの現れ方について解説します。 子どものトラウマがよくわかる 第4回 〈自責感や自己否定感が強くなる。子どものトラウマが大人より深刻になる重大な理由〉より続く
子どものPTSDは、トラウマ体験のごっこ遊びに現れることも
トラウマがあること自体は病気でも障害でもありません。しかし、トラウマの影響による症状が生活に大きな支障をもたらしている場合、心の病気や障害ととらえ、対応したほうがよいこともあります。PTSDはその一つです。 PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受けるといった出来事を直接体験するか、他人(主に養育者)に起こったことや、その死を目撃したり、聞いたりすることで生じるもの。主要な症状には、侵入症状・過覚醒・回避があり、これらの症状が体験後に現れ、1ヵ月以上続いたものをPTSDといいます(DSM-5=精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版 による)。 子どものPTSDは、遊びに現れるほか、漠然としたものへの恐怖が強まり、恐怖や攻撃性に関するさまざまな症状が出やすいこと、身体症状やトラウマを負ったときの体の姿勢や動きの再現、皮膚症状(発疹が出る)が現れやすいなどといった特徴があります。 また、子どもがある体験にうまく対処できるように援助する養育者の能力がかかわってくる点も、大人とは異なるところです。 【子どものPTSD症状】 ●侵入症状 意図したわけではないのにトラウマ記憶が不意によみがえる症状で、夢やフラッシュバックというかたちで現れたり、遊びのなかで再現されたりします。 ・遊びのなかで再現する 低年齢の子どもは、自分が体験したこと、目撃したことなどを遊びのなかで再現することがよくあります。たとえば、暴力的・破壊的な人形遊びや津波ごっこ、地震ごっこなど。これらは「ポストトラウマティックプレイ」といわれ、固い表情でとりつかれたように「そのときのこと」をくり返します。 ・悪夢を見る トラウマとなった出来事や、はっきりそうとはわからなくても、とても怖いいやな夢を見るといった形で再現されることがあります。 ・フラッシュバックが起こる トラウマ体験時の不快な感覚が、自分の意思とは関係なく、突然頭のなかに侵入してきたように生々しくよみがえる現象です。 ●過覚醒 ストレス反応として現れる症状です。寝るのをいやがる、なかなか眠れない、夜中に何度も目が覚めるといったかたちで現れる睡眠障害や、過度の警戒心や過剰な驚愕反応、いちじるしい注意集中困難や、集中力の減少として現れることもあります。 ●回避あるいは認知と気分の陰性の変化 トラウマ体験を思い出すような状況を避ける、人に伝えられなくなる、考えられなくなるほか、否定的な考え、ネガティブな感情が続きやすくなることもあります。低年齢の子どもは、ひきこもる、感情の幅が広がらなくなる、すでに獲得した発達的スキルの一時的な喪失(いわゆる赤ちゃん返り)、遊びの幅の減少・制限などの現れ方をすることもあります。