廃棄される果皮から新素材「多機能かんきつペースト」開発…企業から問い合わせ相次ぐ
「愛媛でかんきつにイノベーションを」――。そう名付けられた新素材が、2025年大阪・関西万博で展示される。 愛媛県四国中央市の製紙会社「愛媛製紙」が開発した多機能かんきつペースト「MaCSIE(マクシー)」だ。商品名は「Make Citrus Supreme Innovation by Ehime」に由来しており、冒頭の意味が込められている。
廃棄予定のかんきつ類の皮を製紙技術で加工し、食品や化粧品などへの活用が期待されている。「製紙」と「かんきつ」。愛媛が誇る産業の粋を結集し、4年の開発期間を経て、21年4月に販売を開始した。
「段ボール用の紙を納品しているJAから、県内で毎年多くのかんきつの皮が廃棄されていると聞いたのがきっかけだった」と、同社の開発担当者、西村慎祐さん(40)は話す。
県内では、かんきつ類がジュースに加工された後、年間5000トン以上の果皮が廃棄されるという。西村さんは、特産品を生かしながら、SDGs(持続可能な開発目標)に沿った新製品を提案した。
着目したのが、CNF(セルロースナノファイバー)。植物の主成分であるセルロースをナノサイズまで細分化した素材だ。製紙工程でパルプの繊維をほぐす「 叩解こうかい 」の技術を応用できるため、製紙業界では約20年前から注目されていた。 ◇
同社は17年、イヨカンの外皮を使って開発を始め、翌年からは愛媛県や愛媛大、化粧品メーカーなどとも連携。製造過程で添加物を一切使用せず、かんきつ本来の色と香りを残したまま、粘度の高いペースト状にすることに成功した。
ただし、商品化に向けて課題も多かった。原材料の果皮が腐ったり、色が劣化したりするのを防ぐ必要があった。種やへたが混入すると口当たりや風味が悪くなるため、除去する技術も求められた。西村さんは「色や風味の維持は製紙では気にしない工程。ナノペースト化するよりよっぽど苦労した」と、食品を原料にする難しさを振り返る。