映画が知らしめた聖職者の性犯罪 深刻な実態、PTSD発症の女性も
映画「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」(フランソワ・オゾン監督)が先月から日本でも公開されている。フランスで現在も裁判進行中の「プレナ神父事件」を被害者目線から映画化したもの。カトリック教会の聖職者による児童らへの性暴力は近年、世界的な問題となっている。長きにわたり明るみに出ていなかったが、2002年、アメリカのメディアであるボストン・グローブ紙が報道したことをきっかけに顕在化した。同紙による取材・報道の過程を描いた映画「スポットライト 世紀のスクープ」(トム・マッカーシー監督)も記憶に新しいところだ。社会問題を広く知らしめるにあたり映画が果たした役割は大きい。
加害者の元神父も少年時代に被害を受けていた
「プレナ神父事件」とは、フランスで1971年から91年の間、未成年者のボーイスカウトの少年たちに性的虐待をした容疑で起訴された元神父、ベルナール・プレナ被告が起こしたもの。同被告は昨年7月に罪状を認め、教会から聖職をはく奪された。公判では当時7歳から10歳だった被害者らが証言をした。その後、プレナ被告自身も少年時代に聖職者から性的虐待を受けていたことを告白、世間を驚かせた。今年3月に禁錮5年の判決が言い渡されたが上訴中という。 「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」は、被害について時を経てやっと声をあげることができた人々の実話に基づいた作品となっており、ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞している。
信頼した神父から被害受けPTSD発症した女性も
現在、カトリック教会ではアメリカやフランスのみならず、ドイツ、アイルランド、イギリス、メキシコなどさまざまな国でこうした聖職者による未成年者らへの性的虐待が発覚、中には裁判の開廷前に自殺する神父も出るなど、教会内外できわめて大きな問題となっている。 日本も例外とはいかず、2002年に司教団が調査に乗り出した結果、国内にも同様の事件が存在することが判明。事態を重く受け止め、同年、日本カトリック司教協議会として「子どもへの性的虐待に関する司教メッセージ」を発表し問題の究明と解決に努める方針を表明した。また、「子どもと女性の権利擁護のためのデスク」も設置、小冊子の発行や啓発活動、神父に向けた研修などを実施しているという。昨年4月には全国にある16司教区を通じた性的虐待に関する調査実施の方針も決めたが、こうした教会側の動きとは別に「内部調査ではゆるいのでは」との危惧から、信徒側から「第三者的な調査の仕組みを設けるべき」という声も出ているようだ。 「今年6月、国内の被害者たちが長崎市内で集会を開き、被害者の会設立を宣言したばかりです。信頼していた神父から性被害を受けPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した女性もいれば、児童養護施設にいた頃に被害を受けたものの当時の記憶をなくし、ある日子どもを風呂に入れているとき突然鮮明な記憶がよみがえった男性などもいます。彼らは別に教会を貶めたいのではなく、真面目なカトリックの信者です。誰もが安心できる場所である本来の姿を取り戻して欲しい、という気持ちが強いのです」と話すのは、カトリック信徒の50代男性。 「これはカトリック教会に限ったことではありませんが、性的事件の被害者は往々にして自分も悪いところがあったのではないか、と思うものです。そこに信仰心がからむとさらに厄介になります。被害をうったえることは聖職者や信仰を冒涜することになるのでは、との恐れから長年泣き寝入りしてしまうケースもあるのです」と指摘するのは、宗教に詳しい50代の男性ジャーナリストだ。 たしかにカトリックに限った話ではないかもしれないが、実際にカトリックで起きていることが事実であるならばそこは「うちだけではない」では済まされないだろう。キリスト教各派の中でもカトリック教会は神父の独身制を貫いているが、妻帯可能にすべきではないか、との議論も起きているという。 さまざまな難関を突破してこの問題にメスを入れた米メディア報道に始まり、映画が問題の深刻さをさらにあぶり出し知らしめた意義は大きいのではないか。 (文:志和浩司)