『猫のしっぽ カエルの手』のベニシアさんが愛した京都・大原の庭。最期の時は、大好きな家で家族と親しい友人たちに囲まれて
山里の古民家で美しい花々やハーブを育て、手作り暮らしを楽しんでいたベニシア・スタンリー・スミスさんが、2023年6月に死去しました。梶山正さんは妻の介護をとおし、学んだことがあったと話します(取材・文:野田敦子 写真提供:梶山正) 【写真】赤や白やロゼなどの花を植えた「ワイン色の庭」 * * * * * * * ◆ベニシアさんが教えてくれたこと 09年にベニシアさんが広く知られるきっかけとなった、NHK―BSのドキュメンタリー番組『猫のしっぽ カエルの手』が始まる。 梶山さんはベニシアさんに許しを乞い、大原に戻っていた。「僕が家出している間、親友がベニシアに、『そんな人とは別れなさい』と忠告したけれど、『私は待つ』と言って聞かなかったようです。ベニシアが僕たちに愛を与え続けたのは、自分も愛されたかったから。彼女を介護するまで、僕はそのことに気づけなかったんです」。 ベニシアさんは、15年ごろから目の見えにくさを訴えはじめる。 白内障の手術を受けるも、3年後に脳神経内科でアルツハイマー病の一種であるPCA(後部皮質萎縮症)と診断された。視覚を司る後頭葉の萎縮に始まり、次第に脳全体の認知機能低下へと進んでいく、根本的な治療法のない進行性の病だ。
「それから約2年半、1日3回の食事を作り、訪問介護員さんに助けてもらいながら介護しました。認知症だから仕方ないんですが、トイレの失敗も重なり限界に……。ベニシアの『家が一番いい。私を追い出さないで!』という必死の訴えに耳をふさぎ、ケアマネジャーさんたちの『この状態なら、施設に入るのが普通』という言葉に逃げ道を見出したのです」 しかし、ベニシアさんがグループホームに入居しても、梶山さんの心は楽にはならなかった。「罪悪感に苛まれました。さらに新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言が出て面会禁止が続いた後、久しぶりに会うと、ほとんど歩けなくなっていて。やたらと『すみません』という言葉を口にするのも、スタッフに気を使っているのかと心配になりました」。 それ以来、梶山さんは毎日通って一緒に散歩し、月に数回は自宅に連れて帰って、友人たちを招いてランチ会を開くなど心を砕く。しかし22年7月、ベニシアさんはコロナウイルスに感染。「肺炎になった」と連絡を受け、梶山さんが病院に駆けつけたときには、別人のように衰弱していた。 「これからどうしようと悩む僕に、先生が『自宅で看ることをお勧めします』と。『でも、仕事が……』と言うと、『辞めればいいじゃないですか』とばっさり。さらに続けて『あと2~3ヵ月の命です』。まさかと思いましたが、この一言で心が決まりました。家に連れて帰ろう。先生の言葉が僕とベニシアの最期の日々を変えてくれたんです」
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