『猫のしっぽ カエルの手』のベニシアさんが愛した京都・大原の庭。最期の時は、大好きな家で家族と親しい友人たちに囲まれて
大原の家に戻ったベニシアさんは、訪問医療・介護スタッフのサポートを受けながら、親しい数人の友人たちに囲まれて過ごした。イギリスから長男の主慈(しゅうじ)さんも駆けつけた。 「寂しがり屋だから、うれしかったと思います。僕はただただ毎日、看護の手伝いやオムツ交換などの介護に必死で。避けて通れない問題が今、目の前で起きているんだ、人生の修行だと自分に言い聞かせていました。 ベニシアはというと、まったく動けないのに『私、いつまでも寝てたらあかん。仕事せなあかん』なんて言うんですよ。頭のなかで、夏のハーブを植えていたんでしょう。この家の庭や暮らしを大事に思う気持ちがあふれていました」。 手厚いケアが功を奏し、ベニシアさんは医師の予想を大きく超える9ヵ月を家族や友人と過ごし、23年6月21日の早朝、眠るように旅立った。「よくやった。よく頑張った。おめでとう」。梶山さんは、ねぎらうようにそっと声をかけたという。
「数日前、写真データを整理し、約12年分のベニシアの写真を見たんです。『俺、こんなにたくさん撮ったのか!』と驚きました(笑)。施設に入ってからの写真はつらくて見られないんですが、それ以外は、どの時期も、病気になった後ですら楽しそうに生き生きと笑っているんです。 僕はいい夫じゃなかったけど、もしかしたら二人で過ごし、二人で何かを作る時間は彼女も楽しかったんじゃないか。僕もずっと幸せでしたから」 介護を通じて学んだことも多い。「自分のためじゃなく、人のために生きて初めてわかることがあると知りました。ベニシアが身をもって教えてくれたんです」。そう言うと梶山さんは初めて見せる涙をぬぐった。 「ベニシアは、スペインの巡礼路(サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路)を二人で歩きたいと言っていました。僕も、『いいね。スペインなら英語の苦手な僕も仲間はずれにならないし』なんて答えて(笑)。歩きたかったですね。そして73歳のベニシアの笑顔を撮りたかった」
ベニシア・スタンリー・スミス,梶山正
【関連記事】
- ハーブ研究家・ベニシアさんが愛した京都・大原の庭を訪ねて。築100年を超える古民家を自分たちで改装。7つの庭を1つずつ完成させて
- 「なんだか若返ったみたい」と言われるようになった、ガーデニングが趣味の70代夫婦。庭にベンチとテーブルを設置、人との交流で脳が活性化
- 竹内まりや「65歳を過ぎ〈残り時間〉をリアルに意識した。桑田君夫妻に誘われて始めたボウリングにハマってます」
- 研ナオコ ブランドバッグを持ってドン・キホーテやホームセンターに通う理由とは?「買いものに大事なのは、波長が合うか合わないか」【編集部セレクション】
- 樋口恵子×和田秀樹 65歳以上5人に1人が認知症と言われるのに「なったら人生おしまい」?高齢者の「迷惑をかけてはいけない」はマイナスにも働く