なぜ「ポルシェデザイン」は時代を超越するのか? 偉大なる911を生み出したカーデザイナーの哲学。
ポルシェデザインの名作時計を現代向けにリファイン
さて、そんなポルシェデザインですが、1972年に創業して最初の仕事が、ポルシェAGから依頼された「クロノグラフの腕時計」でした。 今でこそクルマと時計などのライフスタイル商品を併売することは、主に高級ブランドで盛んに行われているのですが、そのようなクルマとライフスタイルの融合を、この時期に考えていたのは驚きです。 最初に出した腕時計「クロノグラフ1」は、ケースやブレスレット含めて完全にブラックの腕時計でした。ポルシェ911のコックピットのように、機能性と最適な読みやすさに重点を置く事で、時計業界に革命を起こしたそうです。911のメーターがそのまま腕についているような、とてもアイコニックなデザインでした。 そのデザインを、最新の技術で甦らせたのが「クロノグラフ1-Hodinkee2024エディション」です。世界有数の時計プラットフォームである「ホディンキー(Hodinkee)」とのコラボレーションで生まれたこの時計は、オリジナルの「クロノグラフ1」を再現しただけでなく、エイジングされたようなヴィンテージ感あるインデックス部や、曜日を漢字で表示するなど(英語表記と切り替え可能)、新たな試みもあり大変魅力的な時計に仕上がっていました。 ちなみに私の仕事仲間であるカーデザイナーも、時計好きな方が多かったですね。昔からクルマと時計は親和性が高いプロダクトだと思います。 現在、プロダクトデザイン事務所は日本、海外問わず、メーカーからの依頼が少なくなっているのではないでしょうか? 私の肌感覚として、特にカーデザインはその傾向が強いと感じます。 理由としては、社会のトレンドの流れが早すぎるので、どのメーカーも開発日程を短縮しており、メーカーが時間をかけてデザイン事務所に外注するメリットが無くなった事ですかね。純粋なデザインの提案だけでは難しい時代だと感じます。 一方ポルシェデザインは、デザインだけでなく開発、製造、販売まで手がける、いわばデザイン事務所自体がメーカーであり、ブランドになっているという稀有な会社です。 そのような事業形態を70年代初頭に作り出したのは、やはり起業家一族であったF.A.ポルシェの才覚なのだろうと思いました。
元カーデザイナー 渕野健太郎/Kentaro FUCHINO 20年選手だったカーデザイナーを「体力の限界」ということで現役引退。選手時代は「自称」エース格として様々な試合に投入され、結果を出してきた(と思う)。引退後は監督やコーチにはならず、チームを離れセカンドキャリアを選択。これまで育ててくれた自動車業界への恩返しとして、自動車の訴求活動を行う。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業。
文= 渕野健太郎 写真= ポルシェジャパン