「著者はボケ倒してるのにツッコミなし」直木賞作家・小川哲が『百年の孤独』を語る
ガルシア=マルケスの代表作『百年の孤独』の快進撃が止まらない。NHKのニュースでも「続く酷暑」「五輪まとめ」と並んで取り上げられるなどして社会現象と化している。「同じ名前の人物が大量に登場する」「登場人物が何の前触れもなく生き返ったり、また死んだりする」などと都市伝説的に語られた作品だが、『地図と拳』で直木賞を受賞した作家・小川哲さんはこれを「ツッコミなきボケ」と表現している。書評家の長瀬海さんとの対談をお届けする。 *** 長瀬 コロンビア出身のノーベル文学賞作家ガブリエル・ガルシア=マルケスの代表作『百年の孤独』がこの夏、文庫化されました。小川さんが作家として強く影響を受けた作品ですよね。 小川 そうですね。でもね、よく考えてみると不思議な話なんですよ。『百年の孤独』は単行本としては書店にずっとあったわけだから。それがこんなに売れる世界が到来するとは思いませんでした。コロナの時にみんながカミュの『ペスト』を読んだ時の感じに近いんですが、この作品が今こんなに売れているというのは本当に不思議なんです。 長瀬 たしかに。でも新潮社はよくここまで耐えて文庫化しなかったなという感じもしていて――。 小川 何があったのかわかりませんが、ついに……という感じはありますよね。今回の文庫版には筒井康隆さんが巻末に解説を寄稿しているんですが、最後にとんでもない卓袱台返しをしていて筒井さんらしいんですよ。新潮社は『百年の孤独』Tシャツまで作ったみたいですが、なかなか商魂たくましい(笑)。どういった形であれ、作品を手に取る人が増える機会につながるのであれば、いいことだと思いますが。 長瀬 ソーシャルメディアを見ていると、読むのに苦労しているという声をちらほら見かけます。 小川 ぼくも海外の土地を舞台にした小説をよく書くので、登場人物の名前が覚えられなくて困ると言われたりしますが、この作品にいたっては親子2代、3代で同じ名前の人物が登場するので、面食らう人は多いでしょうね。書いた張本人はおそらく楽しみながらやっていると思いますけれど。 長瀬 ぼくは積読も挫折も読書だと思うので、読めなかったからといってがっかりしないでほしい。