早くも脆さが見え始めたトランプ2.0、そもそも圧勝ではなかった大統領選から予測できた「薄氷を踏む政治運営」
■ “マスク大統領”にもあおられたトランプ氏の弱点 さて、米連邦議会は上院、下院とも共和党が勝利したが、昨年(2024年)12月中旬に起きた「つなぎ予算」を巡る一連のゴタゴタ騒ぎでは、トランプ氏が共和党に影響力を行使する上で、制約を受けるような「弱点」も潜んでいることが明らかになった。 日本ではトランプ氏が意外に「弱い」ということは解説されていないため、この話には解説が必要だろう。超党派の「つなぎ予算案」を取りまとめようとした段階で、「これには国民の反対の声がある」と、突如イーロン・マスク氏がXに投稿する形で議論に割って入った。 このマスク氏の動きにあおられたのがトランプ氏で、「政府の支出を議会で決定する際、借金上限の引き上げを条件にすべきだ」と公に主張したため、最初の超党派案の合意は白紙になってしまった。 続いてトランプ氏が支持した案が出されたが、これには民主党に加え、共和党議員からも35人を超える議員が反対票を投じたため撃退された。結局3回目の案への投票で、米下院と上院は政府閉鎖を避けるための新たな法案を可決したが、この法案にはトランプ氏が求めていた借金上限の引き上げは含まれなかった。 これは2025年に始まるトランプ2.0での立法活動でも直面しかねない懸念材料が多分に含まれていた。 一連の動きは、トランプ氏が“マスク大統領”(民主党や共和党の一部が揶揄してそう呼んだ)のパフォーマンスにあおられたという事実と、トランプ氏自身が共和党全体を意のままに動かすには限界があることの2つを浮き彫りにした。2025年に共和党が直面することになる税制改革や国境政策の議論において、今回起きた出来事は決して良い予兆ではない。
■ 2年後の“株主総会”で求められる「成果」 実は、トランプ氏が議会で苦しむことになりそうな種は、トランプ氏自身がまいた結果でもある。 トランプ氏は、ニューヨーク州選出のエリス・ステファニク下院議員を国連大使に、フロリダ州選出のマイケル・ウォルツ下院議員を国家安全保障担当補佐官に任命することで、共和党の下院多数派の割合を狭めてしまった。 また、当初、フロリダ州の下院議員マット・ゲーツ氏を司法長官に選ぶ意向を示したが、ゲーツ氏は不祥事の疑惑により議員の職を辞し、その後司法長官になるのも辞退した。 こうして下院の構成は「共和党220、民主党215(改選前は220対212)」と5席差だったものが、共和党は下院議長も入れて4人抜けて現実的には216となり、民主党との差はわずかに1議席となる。 他方、上院は「共和党53、民主党47」と多数派は奪回したものの、過半数プラス3議席しかなく、共和党から4人反対が出ると動きが取れなくなる厳しい状況だ。 注意が必要なのは、トランプ氏に対する過去の反発はしばしば中道派議員から出ていたが、今回トランプ氏に反対した議員の中に借金上限引き上げに反対する保守強硬派(オルバン主義者)が多く含まれていたことだ。 こうした状況下で、最初の投票の話に戻すと、大統領選挙でトランプ氏に予想より多く票が入ったのは、浮動票、あるいは民主党支持層が、トランプ氏の脅威よりも自分たちの生活が苦しいことに対するバイデン政権への怒り、民主党への「お仕置き」の投票という現世利益的な考えで1票を入れた可能性が高かったとも言える。 そう考えると、彼らはトランプ氏が成果を出さないと“株主総会”ならぬ2年後の2026年の中間選挙で大多数が反トランプに寝返る可能性もある。トランプ氏はこれから2年の間に彼らが納得する「利益」を出さねばならない。これは実は薄氷を踏むような政治運営が必要なことを意味している。 そもそもアメリカの全国民は3億3940万人存在するが、今回、トランプ氏に投票した人を引いた2億6475万人は潜在的にトランプ氏の「敵」になる可能性がある。このうち、トランプ氏に入れなかった民主党員の7091万人はすでに完璧な敵と言えるが、ここが2016年から始まった1期目の「トランプWHO?」というトランプショックとは様子が違う点である。 「トランプ2.0」は、極めて慎重な政権運営を強いられる上に、味方を維持しながら敵をも味方につける難しいかじ取りを迫られる。1月20日の大統領就任式、そしてトランプ氏の就任受諾演説は、「皆の大統領」という主張がより強く打ち出されることだろう。
松本 方哉