世界自然遺産、小笠原諸島の固有生物を食い尽くすグリーンアノールとは?
世界自然遺産にも登録されている、東京都の小笠原諸島。東洋のガラパゴスと呼ばれる、誕生から今まで一度も陸続きになったことのないこの島々には、手つかずの自然が広がり、ここでしか見ることのできない動植物が多数生息しています。 しかし、この島々にも異変が起きています。グリーンアノールをはじめ外来生物が、島特有の動植物の生態系を脅かしているのです。彼らはどこから侵入し、どのように繁殖したのでしょうか? 小笠原諸島の人々の頭を悩ます外来種との闘いについて、国立研究開発法人国立環境研究所の五箇公一さんが解説します。
世界中どこにもいない動植物が生息する島々
日本から特段に遠い島、ひょっとしたら世界一遠い島、それが小笠原諸島です。小笠原諸島は、東京から南に1000キロメートル離れた洋上にある30以上の島々の総称です。諸島の総面積は約100平方キロメートル。一番大きな父島でも、わずか、24平方キロメートルしかない、とても小さな島々です。 この諸島は今から3000万年前から数百万年前に海底火山が隆起してできた島であり、一度も大陸とは陸続きになったことがありません。このような島を海洋島といいます。ほかにはハワイ諸島やガラパゴス諸島、セイシェル諸島などが海洋島として有名です。同じ島嶼(とうしょ)でも、沖縄諸島は古い時代に何度か大陸と陸続きになったことがある島で、こういう島は大陸島と呼びます。 海洋島はできたばかりのときには、陸上生物はなにもいません。長い時間をかけて偶然たどり着いた植物や動物たちで生態系が作り上げられるのです。まわりには大陸がなく、何千キロも広がる海に囲まれているので、辿り着ける生物の種数・個体数には限りがあります。流木や、果実にのって、何日も飢餓や乾燥に耐えぬきながら漂着した生物、軽くて気流に乗って移動することができた生物、長距離移動する鳥に運良く運んでもらえた生物、などなど、命からがらにやってきた生物だけで海洋島の生態系が始まります。そして、隔絶された世界で独特の進化を遂げていき、地球上のほかにはどこにもない島固有の生物多様性が展開されるのです。