世界自然遺産、小笠原諸島の固有生物を食い尽くすグリーンアノールとは?
外来トカゲ、無人島・兄島にも侵入を開始
そんな矢先に、さらに困った事態が発生しました。2013年に、父島の北500mに位置する無人島の兄島にこのトカゲが侵入していることが明らかとなりました。これまで有人島のみに生息していた外来トカゲがとうとう無人島にも侵入を開始したということで島の関係者には大きな衝撃が走りました。 兄島のアノール個体群はまだ侵入初期と考えられ、その分布は島の一部分に限られていることから、何とか分布拡大を阻止して、根絶に追い込みたいと、環境省も地元の人たちも賢明に防除活動を進めていますが、粘着トラップでの捕獲作戦だけでは、封じ込めは難しく、その分布は徐々に広がりつつあります。我々、国立環境研究所でも新たなる駆除手法の研究開発を急いでいますが、無人島ゆえに、貴重な固有種も多数生息しており、選択的な駆除という難題に四苦八苦しながら試行錯誤を繰り返しています……。 無人島の兄島にグリーンアノールが侵入した原因については、人間がカヌー等で島に渡った際に偶然持ち込まれた可能性が高いとされ、その「人間」には観光客のみならず、我々、生態学者も可能性として含まれます(なぜならもっとも頻繁に無人島に渡っているのは調査目的の研究者だったりする)。世界自然遺産に指定されたことで、今後この島々を訪れる人の数はますます増えていくと考えられ、外来生物の侵入リスクもいっそう高くなっていくと考えられます。 遠い島の生物多様性に異変が生じたところで、我々国民の生活に直接支障が生じるわけでもなく、緑のトカゲが増えるとしても南の島っぽくなって結構なことだと思う人も少なくないかも知れません。しかし、数千万年もの歴史を経て形成された固有の自然は、壊すのは簡単でも、またもとの姿に復元することはおそらく不可能です。まだまだこの島の生態系から学ぶべきことはたくさんあると考え、少しでも長持ちさせようと保全することは、人間の未来にとっても決して損なことではなく、それこそが「自然遺産」の価値なのではないでしょうか。 【連載】終わりなき外来種の侵入との闘い(国立研究開発法人国立環境研究所・侵入生物研究チーム 五箇公一)