世界自然遺産、小笠原諸島の固有生物を食い尽くすグリーンアノールとは?
だから小笠原諸島の生物相も、この島でしか見られないという固有種の宝庫です。大きなシダ植物のマルハチ、小さな花を咲かせるシマホルトノキ、諸島の中の父島という島にしか生息しないムニンツツジなどの植物や、アシガラカラスバトやメグロ、オガサワラノスリなどの鳥類、ハナダカトンボやオガサワラシジミなどの固有昆虫類……。どれをとっても、ほかの地域には存在しない貴重な種ばかりです。 先にも書いたとおり、はるばる海を渡ってきた生物が祖先となって、生態系が形成されているので、まず、生物の種類に大きな偏りがあります。大きな哺乳類は生息せず、哺乳類はオガサワラオオコウモリという植物食の大型のコウモリしかいません。は虫類もオガサワラトカゲとミナミトリシマヤモリの2種のみで、両生類は1種もこの島には生息しません。
外来生物の防除・駆除は一筋縄ではいかない
一方、小笠原のカタツムリは、これまでに分かっているだけで100種も見つかっています。カタツムリは日本全体で800種ほど生息するとされますから、この面積でこれだけの種数が存在するというのは尋常ではない多様性を意味します。通常、面積が小さい島では種数は限られるというのが生物学の定説ですが、このカタツムリについては、島に天敵が少ないことや、アリやミミズなどの採集者・腐食者がいないことなどから、様々な生態系機能を担うように、細かく種が分化を果たしたと考えられています。 このような独特の生態系をもつことから、小笠原諸島は「東洋のガラパゴス」と称され、2011年にユネスコの世界自然遺産に登録されました。ちなみに、この小笠原に渡るには、東京港から小笠原丸というフェリーに乗っていくしか交通手段はありません。沖縄のようにジェット機に乗って、数時間というわけにはいかないのです。1000キロメートルの航路を、実に25時間かけて渡ります。それゆえに小笠原は、この地球上で、日本(本土)からもっとも遠い島と冒頭で書いたのでした。 しかし、この遠い南の島の貴重な生態系も人間が住むようになってから、外来生物の脅威にさらされその存続が危ぶまれています。ノヤギやノネコなど人間に飼育されていた動物の野生化集団、船に潜んで上陸を果たしたクマネズミ、害虫駆除目的で導入されたオオヒキガエル、薪炭材として植林されたアカギなどなど、意図的もしくは非意図的に導入された外来の動植物が島の生態系に入り込み、島固有の動植物を圧迫しているのです。 環境省や東京都も、世界自然遺産にも指定された生物多様性を保全すべく、これらの外来生物の防除・駆除を進めていますが、一度定着した外来生物を完全に除去することは難しく、また外来生物の侵入によって小さな島の生態系の構造は大きく変容しており、外来生物を駆除することでさらなる被害が生じるという大きなパラドックスも抱えることとなってしまっています。 例えば、ノヤギを駆除したことで、固有の植物種に対する食害が軽減され、在来植生が回復すると期待されていたのに、逆に外来雑草や外来樹木がヤギの捕食圧から開放されていっそう増えてしまったり、クマネズミを減らしたら、餌不足になったノネコが固有鳥類を襲うようになってしまったり、逆にノネコを減らせばクマネズミが増えてしまったり、という具合に、様々な外来生物が生態系のなかですでに大きく幅を利かせてしまっているがために、駆除することで生態系のバランスがさらに崩れるという事態を招いているのです。