岩橋清勝・リオン社長に聞く 認知症予防に補聴器が果たす役割と啓発の必要性
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は2024年7月から1年間、タレントの近藤真彦さんを起用してACジャパンによる難聴啓発の支援広告キャンペーンを展開している。加齢による難聴に対し、補聴器装用で介入することにより認知症のリスクを低減できたとする研究も公表された。補聴器は、これからの高齢化社会で健康寿命を延ばすためのキーデバイスの1つといえる。日本の補聴器と聴力検査機器のトップメーカー、リオン(東京都国分寺市)の岩橋清勝社長に、認知症予防に向けた啓発活動の重要性、“次世代の補聴器の理想形”などについて聞いた。
◇難聴と認知症の関係
国際的な認知症専門家からなるランセット国際委員会は2020年、「認知症の予防可能な12の要因の中で、難聴はもっとも大きな危険因子である」と報告しました。 健康寿命を延ばすためには聞こえの健康を保つことが重要であるとの認識は、少しずつ広がってきているのではないかと感じています。私たちも難聴と認知症に関する冊子を配布したり、ウェブサイトで情報を公開したり、市民公開講座で専門の先生に講演をお願いしたりといったような認識を広げるための活動もし、手応えを感じているところです。 行政の具体的な動きとしては、東京都の「港区モデル」があります。これは区が「補聴器の購入費を助成することで高齢者の生活支援や社会参加の促進を図る」というものです。現在、全国で200を超える自治体が、程度の差はありますが認知症予防を視野入れて同様の助成金制度を実施しています。 行政に携わる方々の認識が高まり、それを管轄住民に訴える活動をしてもらうことで、難聴と認知症の関連について一般の方にも徐々に理解が広がっているのではないかと思っています。
◇聞こえにくいと思ったらすべきこと
聞こえの問題は、全て加齢が原因というわけではありません。加齢以外の病気や、外的な要因で一時的に聞こえにくくなることもあります。個人では原因を判別するのは難しいので、聞こえにくいなと思ったらまずは耳鼻咽喉科を受診して検査を受けることが大切です。医学的な治療で治るのであれば治療を受ける、加齢が原因なら補聴器の使用も検討する――そうした聞こえを改善するための道筋を正しく示してもらうことが重要だと思っています。 あるアンケートによると、難聴を自覚している人でも、医師の診察を受けるのは4割弱で、14%が医師から補聴器を推薦されています。また、補聴器販売店に相談した人も全体の15%です。このような数字も、補聴器所有率が15%と諸外国に比べて低いことの一因かもしれません。 多くの方は、聞こえにくくなっていることを自覚しながらも自分からは訴えないのではないかと思います。「気付いているけれど受容したくない」「まだ大丈夫だ」というお声を聞くことがあります。しかし、他人と話しているときに頻繁に聞き返すと相手に迷惑がかかる。だから聞こえているふりをしていると、あとで話が食い違ってしまう――そうしたことが重なり、人付き合いを避けて孤立してしまうことが、うつ病や認知症の1つの要因になるといわれています。