アジアにできた高度成長、アフリカはなぜできない?原因は「負の脱工業化」
今、最も伸びシロのある地域だと言われているアフリカですが、フタを開けてみるとマスコミがもてはやすほどの経済成長とは程遠い事実が浮かび上がります。豊富な鉱物資源の輸出だけに頼れなくなったアフリカが目指すは工業製品輸出での経済活性化ですが、そこにはどんな問題があるのでしょうか? 京都大学大学院および神戸大学大学院教授 高橋基樹さんが解説します。
持続可能な開発に向けて アフリカにおける工業化の重要性
前回は、21世紀になってからのアフリカの高度成長をもたらしたのは世界的な資源ブームによって拡大した鉱産物の輸出であり、この高度成長が植民地時代や独立直後の時期と同じ様な少数の輸出品への依存により生じたことを指摘した。そして鉱産物輸出への依存のために、最近の資源(鉱産物)ブームの沈静化によってアフリカの輸出収入が急落し、経済成長率の大きな低下につながったことを見た。ただ、輸出収入の落ち込み方は、輸出品が農産物や工業製品へと相対的に多様化を遂げている国では、鉱産物輸出に極端に依存している国に比べて小さいことも示した。 アフリカの近年の高度成長が果たして持続的なもので、将来の開発と貧困削減につながるのかという問いに答える際に重要なのは、正にもともと賦存している資源と国際市況に制約されている鉱業ではなく、農業品や工業品などの生産が拡大・多様化しているのかどうかだろう。それは単に前回論じた輸出についてだけではなく、国内市場(内需)向けの生産についても重要である。農業や工業の国内向け生産が堅調ならば、たとえ国外の市場でブームが去っても成長を支えることができ、現在のアフリカのように経済全体の成長が大きく低下することはなくなると予想されるからである。 今回は、アフリカにおける工業、特に製造業の状況に焦点を当てて、その状況を見ていきたい。前回、アフリカに高度成長をもたらしたのは、中国をはじめとする新興諸国の発展によって生じた資源ブームであると指摘したが、新興諸国の発展の核心にあったのは、なんといっても工業化の成功である。 一般的に製造業の労働集約的な部門であれば、他産業に比べて雇用の創出能力が高く、貧困の削減、生活水準の向上に貢献するだろう。また多種多様な製品を生み出し得るために、基盤とする技術のすそ野が広がりやすい。もし、製造業を支える技術が国内から供給されるのなら、製造業の発展は社会全体の技術水準と学術の向上を伴うだろう。 そして、ややオーソドックスな見方だが、製造業の発展が原材料の供給源となる国内の農業・鉱業、下支えとなる運輸、通信、金融などサービス産業への需要を高めるかもしれない。また、製造業の生み出す製品が普及することで、国内の他の産業の発展が促されるかもしれない。さらに輸出が可能になれば、鉱産物に比べてより安定した外貨収入をその国にもたらすだろう。これらのことは多かれ少かれ、産業革命以降の欧米、明治維新以降の日本、そして20世紀後半以降のアジア新興国で実現してきたことなのである。果たしてアフリカは、こうした工業化を通じて立ち上がりつつあるのだろうか。 以下ではまず、アフリカの製造業の状況を集計的なマクロの観点から見てみたい。