アジアにできた高度成長、アフリカはなぜできない?原因は「負の脱工業化」
中国などの輸入製品の浸透と「負の脱工業化」
アフリカへの製造業製品売り込みの主役となっているのは、中国である。中国はアフリカの高度成長に伴って、アフリカへの輸出を順調に増やしてきており、現在最大の対アフリカ輸出国となっている。そして、2013年以降、図3に見えるようにアフリカの輸入額全体が輸出と同様に急落しても、中国からの輸入額はそれほど減少しておらず、中国からの輸入は全体の約2割を占めるに至っている。
「世界の工場」中国の製造業の強みは、重化学工業品から軽工業品に及ぶ多様な製品を、質は高くないものの先進国より低価格で提供できることである。表1に示したようにアフリカの中国からの輸入の上位10品目はすべて製造業製品であり、鉄鋼のような重工業品もあれば、衣料品のような軽工業品も含まれている。また、第1位の電気機器のうち最も多い携帯電話のように製造に一定の技術水準が必要なものもある。 アフリカの都市に住む多くの人びとから耳にするのは、「中国の製品が日本の製品に比べて質が低いことは分かっているが、値段の面から中国製品を選ぶしかない」との言葉である。高度成長下、アフリカの人びとの消費意欲が盛り上がるなかで、中国製品はそれに応え、急速にアフリカでのシェアを拡大してきた。安価な中国製品の浸透力はすさまじい。中国製の携帯電話は農村住民も含む非常に広い範囲の人びとに受け入れられている。同国製の靴や衣料品は地方都市の街路上でも一般の人びと向けに広く売られ、貧困層が住むスラムの路上でさえもプラスチック製品をはじめとする中国製の日用品が並べられている(写真参照)。こうした広がりが最近の輸入額全体の急落にもかかわらず、中国からの輸入がそれほど減っていない理由だろう。
アフリカの市場で中国製品の浸透に圧迫されているのは、日本製品だけではなく、何よりアフリカ各国でも作ることのできる軽工業品である。他方、南アフリカを除くアフリカでは、重工業化はまだほとんど緒についていないと言ってよいが、その芽が安価な輸入製品の浸透によって摘まれている面もある。冒頭に掲げた写真のような縫製工場のように輸出もしている例もあるが、これらは先進国のアフリカ向け貿易優遇措置のおかげで操業できているのである。 既存の企業で重工業化に対応できるとすれば、上で触れた政府と関係の深い大企業群であろうが、構造調整を経て体力の弱った大企業群には、中国製品あるいはその他新興国の安価な製品の浸透を跳ね返すだけのポテンシャルを期待することは難しい。このように21世紀になってから中国などから流入する安価な輸入製品との競合は、アフリカの「負の脱工業化」のもう一つの主因であると言ってよい。 大きく見ると、工業化の波はインド洋を越えてアフリカに及ぶ前に、南アジアで止まってしまっている。むしろ、アフリカは中国をはじめとするアジアの工業製品の市場となっている。そこにはアフリカがアジアに資源を輸出し、製品を輸入するという新しい垂直的貿易関係が形成されつつある。それが、「負の脱工業化」の裏側で生じている状況なのであり、資源に依存した近年のアフリカの高度成長の帰結なのである。 ただ、アフリカの町を歩き、インフォーマル事業者の現状をつぶさにみると、上のように主にマクロのデータに依拠して語られる「負の脱工業化」とは、やや異なる動きがあることが分かる。「欠如した中間」=二重構造の底辺から、小規模・零細企業が拡大の気配を見せているのである。次回はその動きについて見ていくことにしよう。 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 兼 神戸大学大学院国際協力研究科 教授 高橋基樹)専門は、アフリカ地域研究、開発経済学。主な著書に『開発と国家―アフリカ政治経済論序説―』(勁草書房)、『現代アフリカ経済論』(共編著、ミネルヴァ書房)など