アジアにできた高度成長、アフリカはなぜできない?原因は「負の脱工業化」
アジアの工業化の成功例バングラデシュとアフリカの伸び悩み=「負の脱工業化」
アフリカの製造業の状況を示す前に、比較の対象として、アジアの工業化の波の先端に立つ国を一つ見てみよう。ここではバングラデシュに注目したい。バングラデシュは長く、アフリカの多くの国と同様に最貧国であったが、近年、衣料製品の製造と輸出を急激に増加させており、世界有数の衣料品輸出国となっている。19世紀後半の日本から始まった工業化の波は、20世紀後半以降、韓国、台湾などの新興工業経済を経て、中国、東南アジアを越え、近年ではさらに西へ進んで、インドをはじめとする南アジアへと及んでいる。南アジアの中でも衣料品輸出に牽引されるバングラデシュの工業化の進展の速さは目立っている。
図1に示したのは、バングラデシュの3産業部門(農業、製造業、サービス業)の、付加価値指数の過去の増加の軌跡である。1981年の各部門の付加価値をそれぞれ100とし、その後の年の付加価値も皆指数化している。同図によれば、2016年までの35年間に農業部門の付加価値は約3倍に、サービス業部門は約5倍に増加したのに対し、製造業部門はそれをはるかに上回る約11倍に急増している。製造業の伸び幅は年々大きくなっており、いわば加速度的に付加価値が拡大していることがわかる。 同じ期間にバングラデシュの製造業の国内総生産(GDP)に占める比率は約13%から約18%へと上昇している。通常「工業化」と呼ばれる歴史の局面では、製造業部門が他の部門より速く成長し、その総生産に占める比率が上昇していくが、バングラデシュではその現象がかなり劇的に生じていると言ってよいだろう。 さて、これに対してアフリカで生じていることは対照的である。サハラ以南のアフリカについてバングラデシュと同様に、3つの産業部門の付加価値の指数の増加の軌跡を示したのが図2である。これによれば、同じく1981年から2016年までの35年間に、サービス業が約4倍、農業が3.6倍に伸びたのに対して製造業の伸びは2.2倍にとどまっている。ちなみに、同じ期間にアフリカの総人口は約2.6倍に増加しているので、一人当たりの工業製品の生産は減少していることになる。そして、製造業のGDPに占める比率は約15%から約10%へと低下しているのである。