「負の遺産」から一転…!大阪万博の開催、「IRの誘致」で…人口島「夢洲」をめぐる、鉄道会社の思惑
近鉄特急の乗り入れ
その夢洲への足となる大阪メトロ中央線と相互乗り入れを行っているのが、近鉄けいはんな線である。この路線は近鉄の路線ではあるが、直流750ボルト第三軌条方式の大阪メトロ中央線と一体運用されているため、直流1500ボルト架線集電方式が採用されている他の近鉄路線からは完全に独立しており、車両の互換性は全くない。 しかし、夢洲での万博や将来のIR計画に大きな将来性を感じた近鉄は、2019年1月にけいはんな線経由で大阪メトロ中央線への近鉄特急乗り入れ計画を発表した。近鉄の計画によると、奈良線の東生駒駅とけいはんな線の東生駒信号場の間に連絡線を設置し、架線と第三軌条両方の集電方式に対応した特急車両を投入し、近鉄奈良駅と夢洲駅を結ぶ特急を運行するというものであった。 この計画を実現するために、架線集電区間でも車両限界にかからない第三軌条用集電装置などを試作し、当初は大阪・関西万博前の運行開始も予定されるなど、近鉄はかなり積極的な動きを見せたが、2020年代後半へと先送りされた。
京阪も延伸を先送り
京阪電鉄は中之島線の終点、中之島駅から大阪メトロ中央線九条駅まで、約2kmの延伸を計画していた。これは利用者数が伸び悩む中之島線を大阪メトロ中央線九条駅に接続させ、京都と夢洲を直接結ぶことで、中之島線の活性化を図りたいとの期待が込められていた。 しかし、2030年秋を目標としていたこの計画も先送りとなった。そのわけは大阪府とMGMグループやオリックスを主体としたIR事業者との間で締結した実施協定に、IR事業者が2026年9月末まで違約金なしで撤退できる「解除権」が盛り込まれたことが理由だ。これにより、IR事業者が撤退し、事業計画そのものが白紙に戻されるリスクが生じたため、株主への説明責任などを考慮し、京阪電鉄は計画を先送りとし、近鉄も同様の理由で特急列車乗り入れ計画を先送りとした。
当初から静観するJR西日本
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンへのアクセスルートとして知られる桜島線、通称ゆめ咲線の終点である桜島駅は大阪臨海エリアに位置していることから、以前より舞洲を経由し、夢洲への乗り入れという構想があるが、現時点においてこのルートは全く具体化していない。 その理由の一つは、JR西日本の路線は狭軌1067mmであることだ。標準軌1435mmを採用する大阪メトロ中央線、近鉄、京阪との相互乗り入れはできないこともあって、他の事業者との親和性は低く、夢洲への乗り入れには当初から慎重な姿勢を崩していない。 また、すでにトンネルが建設済みだった大阪メトロ中央線のコスモスクエア駅からの延伸とは異なり、ゆめ咲線の延伸は海底トンネルなども含めた完全な新規建設路線となるため、その建設費は他の事業者の計画とは桁違いの莫大なものとなる。JR西日本は延伸の可能性を否定してはいないが、今後の状況を確認しながら、静観といった姿勢だ。
事態打開を図る大阪府・大阪市
夢洲への鉄道事業進出のネックとなっていた統合型リゾート事業者の解除権だが、2024年9月に放棄された。最大の障害が消滅したことで、大阪府と大阪市は「夢洲鉄道アクセスに関する検討会」の設置を決めた。 検討会には京阪電鉄、JR西日本といった鉄道事業者も参加し、棚上げとなっている京阪電鉄の九条駅延伸ルートに加え、JR桜島線の延伸についても、整備効果の検討が行われる。2025年度前半には検討結果のとりまとめが公表される見込みだ。夢洲の未来がどのように描かれるか、その報告を待ちたい。 つづきを読む【建設費が「高すぎる」…大分県・宮崎県が独自に動き、それでも「東九州新幹線」建設を推し進める「思惑」】
鐵坊主(鉄道解説系YouTuber)