「年を取っているから飼っちゃダメ」に違和感―室井滋が考える“動物と共に生きる”ということ
1981年のデビュー以来、多くの映画やドラマに出演されている俳優の室井滋さん。猫好きな一面もあり、一時期は6匹もの猫と生活していたこともあるという。昨今ペットの老老介護がたびたび問題になるが、室井さんは「一人暮らしのお年寄りこそ動物と一緒に暮らせるといい」と主張する。デジタル化が急速に進む時代に、アナログな人間として「スレスレの生活」と危機感をおぼえながらも、猫と共に年を重ねることで、揺るがない生き方を見つけられた室井さんにお話を聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
猫嫌いだった子ども時代。でも、一匹の野良猫と出会い人生が変わった
――室井さんは、たくさんの猫と一緒に暮らしてきたそうですが、昔から猫がお好きだったんですか? 室井滋: 実は子どもの頃、すごく猫が嫌いだったんです。ひっかくしいつも追いかけてくるので、怖くて嫌だなって。犬もあまり得意じゃなくて、友達が飼っているかわいい犬をみんなが抱っこしている中でも、私は怖くて抱っこできなくて、毛布にくるんで抱かせてもらったり。ひよことか金魚とか鳥とかは飼っていたんですけど、犬や猫などの動物は全然ダメでした。 20数年前、家にいたある時、外から猫の鳴き声が聞こえたんです。何か鳴いているけど野良猫かなと思って放っておいたんですけど、3日目に鳴き声が弱くなってきて。気になって探したら、子猫が垣根のところをうろうろしているのを見つけたんです。かわいくてすぐに家に連れて帰って、牛乳を飲ませました。 でも最初は、忙しいから自分では飼えないと思っていたんです。たまたまTBSのドラマの撮影がクランクインの日だったので、緑山スタジオに連れて行って、「誰か飼ってくれる人いませんか?」って呼びかけたんですよね。そしたら、一人のスタッフの方が引き取りたいと言ってくれて。「引き取る準備をするから3日間だけ待ってほしい」って言われて、3日間だけと思って飼っていましたが、その間にその子猫がかわいくなってしまって、もう誰にもあげられなくなっちゃって。スタッフさんには「申し訳ないけどあげられない」って伝えました。それが最初に飼ったチビという猫です。 お医者さんに連れて行ったら、生後2カ月ぐらいって言われました。すごく小さくて、本当にかわいくてかわいくて……でもどう世話したらいいかも最初はわからなかったんですよね。家に置いていくのがかわいそうで、いつも連れて歩いてましたね。仕事場にも、メッシュの猫用のリュックに入れて連れて行って。そしたら、とにかく片時も離れない猫になっちゃったんです。 そのうち、家の周りで誰かにいたずらされたのか、足から血を流している猫とかがいて、保護するために近所の野良猫を何匹か飼うようになって、最終的にチビを含めて6匹の子を飼うことになりました。猫との暮らしはすごく楽しいですよ。みんな若い猫でしたが、1匹ずつ性格が違うんです。野良出身だからか、慣れてくるとすごく甘えてくるようになりました。愛情を注いでもらえるのが嬉しいんだろうなって。 ――猫と暮らすようになって、ご自身の生活はどう変わりましたか? 室井滋: 生活は一変しました。昔は雀荘や居酒屋に行って、そこから仕事に行くこともありました。小型船舶一級の免許を持っていて、船を買ってその中に住んでいた時期もあったんです。すごくアクティブでした。若くていろいろなことに興味があったので、外での生活を大切に思っていましたが、猫と暮らすようになって全部やめました。代わりに、猫を通して新しいことに興味の対象が移っていったんです。 例えば、猫を飼い始めてから、本格的に写真を撮るようになったのもそのひとつ。最初は家で猫を撮影していましたが、だんだん外にも撮りに出かけるようになっていきました。カメラを抱えて猫を追いかけていると、猫好きの方から「猫がお好きなんですか?」と声をかけられることも多いんです。それがきっかけで猫友達がたくさんできました。猫との出会いを通じて、単純にお酒を飲むとか麻雀をするとか、自分で楽しんで満足感を得るのとはまた違う、新しい扉を開いたような感覚があります。 一番大事なものが猫になってからは、生活ははっきり変わりましたね。でも今から思えば、私自身の健康とかこの先のことを考えると、猫と過ごしたこの20余年があってよかったなって思います。猫がもしいなかったらどんな20年だったかと思うと、相当すさんでいたかもしれないし、もっと価値観が変わっていたかもしれない。仕事はもしかしたら今よりも良かったかもしれないですけど、私という一人の人間としてどんな風にしたら自分自身が幸せと思えるかを考えると、圧倒的にたくさんの猫といた20年があった方が、ここから先の自分には良かったかなと思います。