赤ちゃん世界から未来を考え、大人世界の基準見直す~子ども目線で不思議世界探究プロジェクト~(山口真美/中央大学文学部教授)
「大人の平均」を基にしたデザインから多様性を前提に設計される世の中へ
赤ちゃん世界を知ることは社会に存在する多様性に目を向けるきっかけとなるだろう。皆さんも、赤ちゃん視点に立って考えてほしい。身の回りの環境は、赤ちゃんに優しいものだろうか。 こうした視点に立った日本科学未来館でのプロジェクトの活動は二つある。一つは、子どもと家族が一緒に参加する実験体験。もう一つは、赤ちゃんの結果と自分の実験体験に基づき、哲学対話でそれぞれの体験を話し合い、さまざまな意見を聞いて未来を考える力を育むこと。大局的には、赤ちゃんから大人へと視点を巡らせることで、未来社会に適応する個々の多様な発達を支える環境のあり方を捉えていくことが狙いだ。
引き続き赤ちゃん世界の解明を深め、私たちの想像を超える豊かな未知の世界を知ることで、新たな世界の基準を作り出す一助となりたいと考えている。具体的な目標は、あらゆるデザインが「大人の平均」を基にされない世の中。多数派の色覚をもとに作られていた地下鉄の路線図に多様性を組み入れたことで、誰にとっても見やすくなった事例もある。平均身長、平均体重のような「平均」で作り出されたさまざまな機器のデザインが、視力や聴力なども含めて多様な人々がいることを前提に設計される世の中へと導きたい。
プロフィール
山口真美(やまぐち・まさみ) 中央大学 文学部 教授 お茶の水女子大学人間文化研究科人間発達学専攻単位取得修了、博士(人文科学)、ATR人間情報通信研究所研究員、福島大学生涯学習研究センター助教授、中央大学文学部助教授、科学技術振興機構さきがけ研究員を経て中央大学文学部教授。新学術領域研究(研究領域提案型)「トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―多文化をつなぐ顔と身体表現」の領域代表などを務める。日本赤ちゃん学会理事長。