資本でも宗教でもない。社会起業家が模索する、もう一つの生き方。
私達だけが「こんな会社があった方がいい」と言っても多分続かないけれど、少しずつ資本主義や株主第一主義の崩れが表れ始めていて、それを感じている人が増えている。たくさん売られたくさん捨てられる服を買うのではなく、「この会社が世の中にあると嬉しい」と投資する感覚で服を買う人が増えてきているので、その流れに乗っている限り何とかなるのでは、と思います。 ── それってまるで、街に美しい公園を作るみたいなことですよね。「駐車場にした方が儲かるけど、緑があって心地いい空間があったほうが嬉しいよね」という、みんなの願いで成り立っている。そのためには、公園自体をずっと美しく保たないといけないですよね。大変なことでもあるだろうなと思うんですけど。 もう修行ですよね(笑)。自分が少しでも自分や社会に対して嘘をついたなと感じると、公園が汚れてしまうので、「いかんいかん」と思いながらストップする。どんなにお金を積まれても、大手クライアントからのお声掛けがあっても、違和感があればちがう道を行き、その道を太くし続けること。「甘い蜜を飲まずして水を飲むのだ」という......本当に修行ですよね。
── その「いかんいかん、こっちじゃない」っていう感度みたいなものって、どうやって鍛えられてるのでしょうか。例えばSOLITが「バンクーバー・ファッション・ウィーク(以下、VFW ※)」への出場に声をかけられたときも悩んでいたと書かれて いましたよね。 「私たちが、流行や既存市場での消費を促す意味合いも持つ"ファッションショー"に出場することは、果たしてベストな選択なのか。この出場が、オールインクルーシブな社会を実現する上でどのような意味を持つのか。そんな問いを発端に、メンバーと議論を重ね、悩みました。」 ※バンクーバー・ファッション・ウィーク......文化多様性の大きな都市・バンクーバーで半年に一度開催される7日間のファッションウィーク。「多様性」をコンセプトに掲げ、2001年の創立以来、グローバルな視点と多文化的な方法で、知名度や受賞歴、活動年数などの経歴にかかわらず多くのデザイナーの成功をサポートするために尽力されてきた。 ── こんなふうに違和感に敏感になり考え続けるのって難しいと思うのですが......。 私はいつも「何事も裏がある」と思うようにしているんです。「何事もいろいろな人が関わっていて、社会的な構造の中で起こっている」と。できる限り森を見ながら、木も蟻も空気も見ながら、ひとつの意思決定をするようにしている。だからそういう意味では意思決定のスピードが遅く、一度決めたら変えないタイプなんです。 ── 「経営者の意思決定は速いほどいい」と言われますが、その逆を行かれていますね。 私から見てめちゃくちゃイケてる粋な人って、お金に目もくれず粛々と自分がやるべきことに集中されている方なんですね。バリ島にある助産院にロビン・リムという助産師さんがいらっしゃるんですが、その方は妊婦さんから一切お金をもらわずに、ただ「人は健康であるべき、人は幸せであるべき」という考え方に則って仕事をし続けているんです。全然儲かってないけれど、周りにいる全員が幸せそうなんですよ。 そういう人を見ると、私は有名な経営者になれなくて全然いいから、ちゃんと「これが正しいのだ」と正義感と倫理感を心に持ちながら生きていく人でありたいって思う。それは自分の中の心で決めていることですね。 ── その助産師さんも「この世界にいてほしい」と思う人達がいるから、活動を続けていられるのかもしれません。今後、そういうふうに社会の価値観も変化していくのかもしれないですね。これまでは「儲かる」から投資してきたけれど、これからは「こういう会社(人)が世の中にあった方が素敵だよね」という気持ちで投資をするようになるかもしれない。 そうですね。お金の意味合いや使い方が、自分の幸福のためというより、全体最適や共通善のために使われるようになるのではないかと思います。そうなると、価格で価値を感じていた人が、ちゃんと自分の価値観に合わせて価値を決めていくことができるようになるんじゃないかなと。