押せ押せムードが一転、自陣で耐える展開に…… "普通の体育会"を通じて考えさせられる「頑張る」ことの意味
その道は、ビクトリーロードへとつながるはずだった。 いつのまにか降り注いでいた冷たい通り雨も、キックオフ直前になって、どこかへと消え去っていた。 【写真】入れ替え戦に敗れた後、グラウンドの片隅で円陣が組まれた 青く高く澄んだ冬の空が、帰ってきた。 12月8日、関東大学ラグビーリーグ戦3、4部入れ替え戦。3部7位の東京都立大学が、4部2位の駒澤大学をホームグラウンドで迎え撃った。 選手入場。その直前、応援に集まったOB、OGたちが、ベンチ前へと駆け寄ってきた。2列になって、即席の、アーチのような「入場ゲート」をつくる。勝利へとつながる道だ。 かけ声とハイタッチで後輩たちを鼓舞し、送り出す、サプライズの演出。選手たち、気持ちが高まらないわけがない、ホームチームを後押しする空気がグラウンドを包み込む。 相手は、のまれていく。 開始早々、スクラムを押し込んで先制トライを奪った。フォワード(FW)を軸に攻勢をかけ続け、19-14でハーフタイム。勢いは衰えない。後半、やはり開始早々、敵陣深くへ。20m近くモールで前進して、フッカー高尾龍太(院2年、高津)が、この日、自身2個目のトライ。 取って取られてが繰り返される。それでもリードは譲らず、迎えた27分のことだった。
勝負の分かれ目
ゴール前の左中間、やや中央寄りで相手が反則。ペナルティーゴール(PG)のチャンスが転がり込んできた。 この時点で26-21。キックを決めて3点を追加すれば、リードは8点に広がる。1トライ1ゴールの7点では追いつけない、セーフティーリードのアドバンテージを手に入れることができる。 蹴るのは、フルバック(FB)大森拓実(2年、日野台)。そこまでゴール3本中2本を、しっかり沈めていた。調子は、悪くない。 水を口に含む、慎重にボールをセット、助走、深呼吸。 右足を振り抜いた。 ボールは、ゴールポストの右へと、それていった。 押せ押せだったホームの空気が、少しずつ、変わり始めていった。 一転、自陣で耐える展開。タックルに入るタイミングが、少しずつ、遅れ出していった。36分のラインアウト。大きく右に振り回されて、同点トライを許し、ゴールも決められた。逆転。この日、初めて、リードを奪われた。 2分後、この日、初めて、中央突破を許した。決着のトライとゴールを失った。 26-35。 ノーサイドの笛が鳴った。選手たち、無表情のまま、立ち尽くした。 一拍を置いた後、何人かの頰(ほお)を、涙が伝った。 前日の練習でマネージャーたちが流した感謝と高ぶりの涙とは、違う涙だった。 4部降格。ビクトリーロードは、つながらなかった。7年間、守り抜いてきた3部の席を降りることになった。 シーズンを締めくくる、最後の円陣が組まれた。 4年生たちの、ラストメッセージ。 この日も最後まであきらめないタックルを連ねた副キャプテンのウィング(WTB)伴場大晟(磐城)。まだ、涙は、かれなかった。 「3部の歴史をつなげず、すみません」 ノーサイドの瞬間、空を見上げて涙をこらえようとした丁野真菜(厚木)。涙顔の笑顔をつくっていた。 「負けちゃったけど、今日、みんなの笑顔をたくさん見ることができた。悔いはありません」 試合中、チャンスでもピンチでも選手に声をかけ続けていた川添彩加(徳島北)。目は真っ赤だった。 「この時間、『宝物』になりました」