桜宮高校バスケ部体罰自殺事件を問い直す(上):真面目な子供を死に追いやる「部活」の異常さ
高校生活の目標が「死なないように毎日を乗り切る」
小学3年生だった谷がバスケットボールに関心を持ったのは、1996年にドラフト1位でNBA入りしたアレン・アイバーソンに魅了されたからだ。身長183センチと、世界一のリーグではかなり小柄なガードだったが、1999年、2001年、2002年、2005年と4度の得点王に輝き、2001年にはリーグMVPも受賞している。 「高校時代はアイバーソンのプレーを真似てみたいとか、NBAのようなバスケをしてみたい等と、考える余裕すらなかったです。ただ単に耐える。一日を終える。それだけでしたね。今日をどう乗り切れるか。1年生の中間くらいから、『死なないように毎日を乗り切る』がテーマとなりました。そもそも、自分のやりたかったバスケが何なのか、振り返る時間すら持てないんです。 私は小村から、そんなに殴られていない方です。殴られる生徒と殴られない生徒って分かれるんですよ。小村の気分もありますしね。ルーズボールに飛び込まない、本人がやっているつもりでも、指示どおりにディフェンスをやっていない生徒は、問答無用で殴ったり蹴っ飛ばされたりします。さらに、小村の中で殴りやすい子、殴りにくい子っているんですね。“はい、はい”と言うことを聞く、健気なタイプは殴られます。それは、自分が率いる組織を都合よく動かすため、恐怖を植え付けるためなんです」 ――そんな調子では、好きだったバスケットボールが嫌になってしまったでしょう? 筆者の問い掛けに、谷は深く頷いた。 「バスケが好きだという気持ちが、どんどん無くなっていきました。高校時代は、早く解放されたい、もしまたスポーツをやるなら個人競技がいい、ロードバイクでもやってみようか……なんて考えていましたね。実際に高校卒業と同時にバスケは辞めましたが、大学時代や社会人になったばかりの頃は、それこそ小村に嫌味を言われたり、ビンタをされたりする夢を頻繁に見ていました。 でも、最近見る夢が変わってきました。もっときちんとバスケをやりたかったなという気持ちになったのは、この1年くらいなんです。中学校時代に活躍して、バスケが楽しかった頃の夢を見たりしますね」 18歳で高校を卒業し、現在30歳の谷は、10年以上も過去に苦しめられたのである。 (つづく)
林壮一