パリオリンピックで見えた「男子の世界バスケ6つのトレンド」
“最強軍団”アメリカ代表の5連覇で幕を閉じたパリオリンピックの男子バスケットボール。日本国内では、果敢に世界へ挑んだ日本代表の奮闘ぶりが話題の中心だったが、強豪国が集う五輪だからこそ見られた世界トップレベルのプレーも光った。 今回はバスケットボールコメンテーターの井口基史氏がパリ五輪を振り返り、各国のプレーから見えてきたバスケ界の“ニュートレンド”を分析。日本代表のさらなる強化につながるヒントを探る。 文=井口基史
■「ガード選手のエントリーの減少」
グループフェーズ、決勝トーナメントと負けられない戦いの中、ボールを運ぶ役割のガードの選手たちへの激しいボールマンプレッシャーは各国が当然やっていました。それに対してエース級のガード2~3人をロスターに編成している国が多く、ディフェンスの激しさでたとえファウルが混んだとしても、能力の変わらない選手が控えているので、さらに思い切りプレッシャーをかけにいっている傾向が出てきたようです。 これまではガード選手がボールを運び、ハーフコートオフェンスにエントリーすることがほとんどでしたが、激しいプレッシャーからのターンオーバー、エントリー失敗を避けるため、オンボールプレッシャーがかかりにくい、4、5番の選手にあえてボール運びを任せるシーンが決勝トーナメントでは多くありました。すでにBリーグでも実施されている考え方ですが、今後はよりビッグマンにボール運びがスムーズにできるドリブルスキルが求められている時代にすでに入っているでしょう。
■「クロージングの判断」
面白かったのが8月8日に行われた男子の準決勝、フランスvsドイツの最終場面でのゲームのクロージングの方法でした。 第4クォーター残り10.9秒、フランスが71-68とリードしてドイツがタイムアウトを申請。そしてドイツのスローインからデニス・シュルーダー選手にボールが渡り、そしてドリブルを始めた瞬間、フランスのイサイア・コルディニエ選手がファウルをして時計を止めました。勝っているにも関わらず、ファウルゲームのような作戦に出たのです。 残り時間は残り9.4秒。すでにこのクォーター、フランスのファウルは5個に達していたので、シュルーダー選手にフリースローが与えられます。結果、1投目ミス、2投目成功でフランス71-69ドイツとなりました。 この場面、フランスは戦術的にファウルに行きましたが、2投とも決められて1点差となるリスクもありました。仮に1投目成功、2投目ミスとなった場合でも、オフェンスリバウンドからねじ込まれて同点のリスクもあります。最悪のケースはエンドワンで逆転される危険もはらんでいたわけです。ただし、フランスはファウルをすることでボールの保持権を獲得し、難しいゲームをクロージングする場面でゲームをコントロールすることを選択したわけです。 点を失ってでも最後のポゼッションを取りにいという考え方は、ユーロリーグでも浸透してきていました。今回、五輪の、しかも準決勝というステージで実際に使われて成功したことにより、Bリーグでも試合終盤で同様のクロージングをしてくるチームが出てくる可能性もあるでしょう。