なぜ、いまアルファロメオ史上“最も醜い”アルナに脚光が? 日産とのコラボ黒歴史に変化<大矢アキオ ロレンツォの連載コラム 第50回>
目利きたちが再評価
今回のトークショーではアルナの美点も挙げられた。たとえばパルサー/ラングレー譲りの広い室内とアルファスッドのフラット4による低重心だ。元F1選手・故クレイ・レガッツォーニの娘アレッシア氏は、自身も事故で車椅子を強いられていた父が、ドライビングスクールに身障者仕様のアルナを導入したことを説明。従来サーキット走行を諦めていた人たちに門戸を開くきっかけとなったと回顧した。 アルナに関する著書があるデザイン評論家マッテオ・リカータ氏は、当時「コリアスコ」というカロッツェリアが、アルナを基にしたカブリオレ、クーペそしてワゴンを計画していたことを解説した。同社はすでに存在しないが、アルナはプロに“もう少しリファインすれば、ものになる”と思わせるものがあったのだ。 日産はアルナで得た数々の教訓をイギリス現地生産に活かし、同工場製の2代目「マイクラ(マーチ)」で成功。日本車初の欧州カー・オブ・ザ・イヤーを獲得した。 当日博物館の駐車場には、ファンが乗りつけたアルナが並んだ。エリザベッタ・コッツィ館長によると、その日の定員約100名は、早くから満員御礼となったという。 欧州屈指のアルファ収集家アクセル・マルクス氏も、アルナのスイス限定仕様「ジュビリー」とともにやってきた。「道端のウインドウに映るたび、アルナと自分に絶望」しながらも「渋滞では今日の車以上に機敏です」と愛憎劇を語り、会場を沸かせた。加えて、外科医として勤務している病院で駐車場が「(高級車ばかりの)モーターショー状態」であることに違和感を覚え、敢えてアルナで通勤していた時期があったことも明かした。本人流のミニマリズムだ。 かつて“最も醜い”といわれたクルマが時を経て今、再評価されようとしている。だからクルマの歴史は面白い。
文と写真= 大矢アキオ ロレンツォ(Akio Lorenzo OYA) 写真= Mari OYA/日産自動車/ステランティス