地球外生命を探して -太陽系の“三大名所“をめぐる 2.エンケラドゥス
関根:はい。で、カッシーニ探査機は、2005年にさっきの噴水を見つけました。で、研究者はみんな驚いたわけです。そんなところに海があって、噴水が吹き出しているなんて誰も予想してなかったのでみんな驚いた、そのあと、数年間かけてカッシーニ探査機は、エンケラドゥスの噴水の中への突入を何度か行いました。 突入といってもそんな簡単じゃなくて、噴出している海水に対して、自分自身がかなり高速でぶつかるので、もう鉄砲の弾と同じようなものが探査機の体にぼんぼんぶつかって、それでも探査機は懸命にその海水をつかまえて、それを分析して、海の中にどういう成分が溶けているかっていうことを分析して地球に届けてくれました。その最初に詳細な成分が分かったのが、2009年です。それから何回かカッシーニがこの噴水の中に突入して、今では3つの重要な発見がありました。 まず1つ目は、海水に塩が含まれていたってことです。地球の海もしょっぱいですよね。エンケラドゥスの海も同じようにしょっぱかった。しょっぱいって何を意味しているかというと、しょっぱい成分のもとっていうのは塩ですよね。つまり、ナトリウムと塩素という元素なわけです。このナトリウムとかいう元素はもともと水の中に存在していたわけじゃなくて、岩石に含まれていて、それが水の中に溶け出して、供給されている。つまり簡単に言えばエンケラドゥスの液体の海と岩石は、やっぱり化学反応を起こしているということを示しているわけです。地球上の海もしょっぱいのも、岩石と水が反応しているからです。 2つ目の大きな発見は、噴出した海水の中に有機物が含まれているということが分かりました。有機物っていうのは、われわれの生命の体を作っている根幹となる材料物質です。その生命の材料物質が、すごく豊富に、地球の海よりも何倍も、何十倍も濃く、このエンケラドゥスの海の中に溶けているということが分かりました。 で、最後の重要な発見は、温泉に含まれているようなシリカと呼ばれる鉱物粒子も海水中に含まれていたということです。我々は、実験室でエンケラドゥスの中の温度と圧力を作り出して、内部での岩石と海水の化学反応を再現するような研究もしていますけれど、シリカが作られるためにはエンケラドゥスの海の中にはおそらく、熱水噴出孔と呼ばれる海底温泉みたいなものが吹き出していて、温度は100度とか200度ぐらいの環境がこの海の中にあるんじゃないかなってことが分かってきたわけです。 谷:温泉がありそうっていうところまで分かるんですね。 関根:はい。 谷:でも、そんな冷たい星で太陽から遠く離れているところで、なんで温泉のようなものができるんでしょうか。ここで、それでは一度、簡単にお話をいただきたいと思います。 関根:そうですね。エンケラドゥス自体は土星の周りを回っています。エンケラドゥス以外の衛星も回っています。そのとき、何が起きるかというと、エンケラドゥスより遠くにに別の衛星が回っていると、エンケラドゥスは後ろからもこの衛星の重力で引っ張られて楕円の軌道になります。楕円の軌道になると、土星の重力によって引っ張られて斜めに、大げさに言えばラグビーボールみたいな形に変形します。このようなことを何回も繰り返すうちに、変形による摩擦で中の温度が上がってきて、それで氷が溶けて、それで中に海ができたんじゃないかなっていうふうに考えられています。 谷:なるほど。エンケラドゥスの周りを今、土星が33時間ぐらいで1周する計算なんですけれども、ほかの衛星と一緒にぐるぐる回っていくことで、あっちから引っ張られたり、こっちから引っ張られたり、そんなことが起こっているということですね。そして、それが熱を生み出すんですか。 関根:はい。熱を生み出して、中に海ができると。だから、太陽からのエネルギーだけじゃなくて、重力のエネルギーで内部に海を持つという天体が存在するわけです。そうすると、皆さんまず、疑問に思うのは、そんなところに生命はいるのかってことです。 さきほど話したように、太陽の光を受けて地球の生命たちは光合成をしてエネルギーを得ているわけなんで、エンケラドゥスの海は確かに液体の海は存在するんですけど、太陽の光は届きません。表面の氷が厚すぎて太陽の光は届かない。そういうところで生命いないじゃないかなと思うかもしれませんが、地球の海の底の様子を見てみましょう。