日本サッカー協会会長・宮本恒靖 「子どもの選択を奪う権利は、親にもない」
「自分にベクトルを向ける」
――厳しいプロスポーツの世界で長年戦ってきた宮本さんから、受験生へのアドバイスはありますか。 サッカー選手がよく使う言葉に、「自分にベクトルを向ける」というものがあります。これは、うまくいかない状況を自分以外のだれかや、何かのせいにせず、自分にできることを考えるということです。例えば、試合で自分を使うか使わないかの判断は監督がすることであって、自分ではどうにもできません。だからそこの部分に焦点を当てて悩んだり腐ったりしない。何をどうすれば自分は試合に出られるのか、そのために自分自身が解決すべき課題は何なのかを考えるのです。もし自分が100%の力で練習に取り組み、あらゆる準備ができていると思うなら、あとは監督に委ねればいいことです。結果がどうあれ、自分ではコントロールできないことに心を乱される必要はありません。 受験生も模試の結果などで一喜一憂することもあるでしょうが、たとえいい点数が取れなかったとしても、そこで自分の苦手分野を分析して復習すれば、必ず成長できます。悪い結果を何かのせいにして、ただ落ち込んでいるだけでは、何も変わりません。 ――ところで、大学生の息子さんと高校生の娘さんとは、進路の話はしますか。親として、子育てで大事にしてきたのはどんなことですか。 自分の道は自分で選択するように、ということは伝えてきました。勉強については、小さい頃は見ていましたが、高校生ともなるとそういう機会はありませんね。以前、何げなく息子に「ちゃんと勉強しているの?」と聞いたら、「今まで何も言わなかったのに、突然そんなこと言われても困る」と言い返されました(笑)。息子の大学受験の志望校選びも、最後は自分で決めることなので、息子の気持ちを尊重しながら少し助言をした程度です。 娘は、6月末まで10カ月ほどカナダに留学していました。4カ月と10カ月のコースがあって、初めは4カ月のほうを希望していたのですが、「4カ月では短いんじゃないの」という話をしたら、「じゃあ、10カ月にする」と。今まで家を離れたことがない子だったので、この決断には少し驚きましたね。もちろん、英語力は短期間で急に身につくものではないので、「大切なのはこれから先、どうやって勉強していくかだよ」とは伝えました。