高まる「ホームグロウン・テロ」の脅威 対策には何が必要か?
特に、欧州各国から「イスラム国」に参加した1000人を超えると見られる若者たちが、西側への憎悪をたぎらせて帰国すれば、必ず先進国でテロ事件が発生するであろう。彼らは、元々過激組織への属性がないため、彼ら自身が小規模のグループを作り、母国を含めた西側社会への報復を遂げるというパターンであるが、であるからこそ、治安機関の網に掛かりにくく、危険度は一層高まるのである。各国とも、人権問題との兼ね合いをある程度考慮に入れつつも、出入国管理をより厳格に行う必要があろう。 翻ってわが国の状況を見ると、日々の生活に飽きたらず、刺激を求めて安易に「イスラム国」やヌスラ戦線に参加した若者も複数存在すると指摘されている。“まさか日本人が”という甘い考えは捨てなければならない。 また、イスラム過激派の例で言えば、我が国でも、1991年7月、「悪魔の詩」を翻訳した筑波大学の五十嵐助教授が何者かに殺害されるという事件が起きている。この事件は、同書籍によってイスラムが愚弄されたと判断した何者か(又はその手先)が日本に潜入し、同助教授の殺害に及んだと考えられている(犯人は未逮捕)。 今年1月7日にフランスで起きた銃撃テロ事件の犯人の動機は、イスラムの預言者モハンマドの風刺画を掲載した出版社への報復であった。我が国でも、2001年に富山県でコーラン破棄事件が発生し、国内のイスラム・コミュニティの間で大きな抗議行動に発展している。イスラムの知識に乏しい日本人が、無意識に同様の行為を行わないとも限らず、その点には細心の注意が必要となろう。
日本でのテロをどう防ぐか?
日本は海に囲まれた島国であり、古来より異民族による侵略を免れてきた。しかし、昨今の世界情勢を鳥瞰すると、わが国民も早急に意識の転換を図らなければならない。テロリストの侵入は水際で防ぐのが基本であるが、そのためには、これを担保する体制の整備と情報が必要である。 先進国の優秀な情報機関は、自らの生命を賭した厳しい環境下で情報収集活動を行うことも多く、時には、協力すると見せかけたテロリストの罠に掛かって一度に多くの捜査員の生命が失われるといった事例も過去にはあった。しかし、そうした苦境を乗り越え、2011年には、10年間も所在不明であったアルカイダのオサマ・ビン・ラディンの隠れ家を突き止めるという快挙も成し遂げた。 また、外国では、通信傍受でテロリストの動きをモニターし、テロ関連情報を入手しているといわれるが、他方、わが国では、この方法は許されていない。したがって、わが国の治安機関は、友好国から関連情報を提供してもらうか、人的情報源(ヒューミント)から情報を入手する以外に方途がない。 また、忘れてならないのが、一般市民による情報協力である。国民が不審者に対する警戒心を高め、自分で自分の生命を守るという意識を持つことが何よりも大切であろう。 (元公安調査庁東北公安調査局長・安部川元伸)