理想像を押し付けるより、スタッフのベストを――湯浅政明監督が語る「現場主義」のアニメ制作
アニメ監督・湯浅政明(57)。『ピンポン THE ANIMATION』『夜は短し歩けよ乙女』などのほか、女子高生のアニメ制作を描いたテレビシリーズ『映像研には手を出すな!』も記憶に新しい。フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭で、宮崎駿、高畑勲に次ぐ日本人3人目の長編部門最高賞受賞を果たすなど、国内外で高い評価を受けてきた。アニメーターとして、監督として、制作会社の社長として。独自の世界をどう生み出してきたのか。(文中敬称略/取材・文:長瀬千雅/撮影:猪原悠/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
アニメ制作は「現場主義」
女子高生3人がアニメ制作に邁進する『映像研には手を出すな!』。2020年1月に放送されると瞬く間に話題になり、ラップデュオchelmicoの楽曲にのせたオープニングは、さまざまなミーム(パロディー動画)がつくられた。 キャラクターの顔が右に左にぐいんぐいんとゆがみ、ふざけたポーズで現れたと思ったら、シルエットになってうねうねと踊る。絵が動くことの快楽を感じさせる、中毒性のあるアニメーション。これぞ、湯浅政明の持ち味である。 「よかったとは言われますけど、分かんないです。自分としてはいつも通りなので。OPに関しては、本編にない、高校生らしいわちゃわちゃ感を出したかったのと、緩急ですよね。音楽に乗ると気持ちがいいなって。スピード感とか、押したり引いたり。あまり手間をかけないように、でも音楽に合っていて気持ちよく、何かがいつも動いている感じをイメージしています。絵コンテを描いて、ディレクターのアベル(・ゴンゴラ)さんたちと打ち合わせして、テンポと絵の方向性など説明して、お任せしました。あとは聞かれた時だけコメントしたかと思います。細かく指定する場合もあれば、自分で描いてしまう時もある。やり方はその時によっていろいろです」
2004年に映画『マインド・ゲーム』で長編初監督。以来、平均して1年に1作のハイペースで作品をつくってきた。2013年にはアニメ制作会社「サイエンスSARU」を設立、2020年まで社長を務めた。 「ほっこりとした、日常を描くものはあまりやったことがないですね。実写で日常の映画が流行った時期がありましたけど、映画を見てホッとしたい人が多いのかなと思います。アニメーションでもそうかもしれません。でも僕は、日常を描くことにはあまり興味がなかったですね。それに、日常描写はクオリティが必須になりますから。何か派手に起きていたほうがあらが目立たなかったりしますので。でもいつかは挑戦してみたいです」 「つくり方は、スタッフにもよります。この時間とこの戦力でやるには、どうつくるのがベストなのかを考えています。予算と時間がなくても、やりくりすればこれくらいのものはできるぞというところを、いつも目指したいと思っているので。戦略的というより、現場主義です。僕が育ったスタジオは納期を守るところでしたから、そういう癖がついてしまっていますね。スケジュールを延ばしてでもいいものをつくろうという人は、すごいなって思います。でも、(最新作の映画)『犬王』はちょっと延ばしてもらったんですよ。経営から離れたこともあって」