理想像を押し付けるより、スタッフのベストを――湯浅政明監督が語る「現場主義」のアニメ制作
『犬王』は、壇ノ浦での平家滅亡から200年あまりのち、室町時代が舞台。異形の能楽師・犬王と盲目の琵琶法師・友魚(ともな)が、平家の亡霊たちの物語を拾う。2人のパフォーマンスは京の人たちを熱狂させ、スターへの道を駆け上がっていく。音楽に大友良英を迎え、アニメーションによるロック・ミュージカルに挑戦した。 「お話としては、ちゃんとテーマを持って、筋を通して、ある種のハッピーエンドとしてきちんと着地させる。ここのところずっとやってきたことを生かしています」 脚本には野木亜紀子を迎えた。『犬王』の企画が動き始めたころ、ドラマ『重版出来!』や『アンナチュラル』で頭角を現していた。 「どの脚本家の方にも学ぶところが多いですが、野木さんには、エンタメの第一線で戦っている人の強さを感じました。ストーリーに一本の筋を、強く通そうとする。僕なんかは少しそこを濁らせたいタイプで、いろいろやりとりがありました。『犬王』が見やすい作品になっているとしたら、野木さんが物語づくりの基本をガチッと押さえようとしたところに、僕もある程度、のっかってるからかなと思います」
実写では成功しない脚本も、アニメだと成功する
アニメーションと実写とでは、物語のつくり方に違いがあるのだろうか。 「アニメーションはやっぱり絵なんです。例えば、実写では成功しない脚本も、アニメーションだと成功させることができる。ちょっとトリッキーな、飛び抜けた展開をしても、絵の方向でストーリーを引っ張っていくことができるし、漫画的な表現も、意図的にやっていることが分かれば、そういうテンションのアニメなんだなということで理解される形にもっていける。実写とは、説得力の方法が全然違うと思うんですよね」 「反対に、作品がまずいと脚本が悪いみたいな話になりますけど、アニメーションの場合は、必ずしもそうとは判断できないと思います。脚本は作品を成功させるために書かれていて、その脚本が要求しているスタイルに演出や絵づくりが追いついていないから、失敗したように見えるということもあると思う」