理想像を押し付けるより、スタッフのベストを――湯浅政明監督が語る「現場主義」のアニメ制作
揺るぎない結果を出さないと、仕事がなくなる
テレビアニメ『四畳半神話大系』(2010年)を手がけた後、仕事のない時期があったという。 「企画がつぶれることが多かったです。もちろんそのころも努力はしていましたけど、もっと真面目に、観客にうけるための努力をしなければいけないって思いました。テレビや配信はヒットしたかどうかってよく分からないんですよ。ネットでは作品に好意的な人だけでなく、嫌いな人の感想もどんどん上がってくるので、一般的な評価とも違うように見えることも多い」 「数字は気にします。作品をつくって利益を得るという仕事なので、仕事をもらえるうちに、はっきりと揺るぎない結果を出さないと、仕事がなくなるぞということも思います」 アニメの「数字」というと近年は劇場用長編の興行収入が取りざたされることが多い。湯浅も長編に力を入れているが、原点は『鉄人28号』や『W3(ワンダースリー)』といったテレビアニメ草創期の作品だ。自分が子どものころに見ていたアニメと比べると、潮流が変わってきたと感じる。 「アニメーションが描く内容は多様になっていると思いますが、絵柄的にはある程度固まってきたなという感じはあります。昔はオタクっぽいと思われていたような絵柄が一般的になっていって、今ではそれがスタンダードになって、みんなアニメを見ているんだな、と。そこから外れると、変わっているとも受け取られる。昔はこっちが普通だったんだけど、みたいなこともあります。自分も、そっちに寄っていってみたりもしましたが、なかなか合致するところにはいかなかったですね」
湯浅には過去のある時期、「封印していたもの」がある。 「猟奇的な、どろどろとしたものですね。さわやかでなく、明るくないものは、みんな好きじゃないのかなと思って。昔は血が流れるシーンはダメだとか、ハードな絵はうけないという時期もあったんです」 最新映画『犬王』では、その封印を解いた。原作は古川日出男の小説『平家物語 犬王の巻』だ。書籍の表紙を松本大洋が描いていたこともあり、キャラクター原案はすんなりと松本に決まった。 「これはヒットさせようと考えなくてもいいのかな、と思ったんですよね。だって、『犬王』というタイトルは、みんなが喜ぶような、アニメらしくて楽しいなという絵ではやれないでしょう、という(笑)。ヒットについて考えるのは、プロデューサーたちに任せました。企画した側がそれを望んでいるんだから、僕がやるべきことは、この題材をできるだけ面白く伝えることだけ。封印していた(猟奇的な)ものも、最近はゲームでもハードなものがあるから、またそういうものをやっても意外と受け入れられるのかなという感覚はありました。『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』、『王様ランキング』なんかもありますし。分からないものですね」