理想像を押し付けるより、スタッフのベストを――湯浅政明監督が語る「現場主義」のアニメ制作
アニメーターの正当な評価とは?
元々はアニメーターだ。1987年からアニメ制作会社の亜細亜堂で仕事を始めた。ファミリー向けテレビアニメを多数手がける会社だった。フリーランスになった後、1993年にスタートした「クレヨンしんちゃん」の劇場版で、設定デザインを任された。絵コンテと作画を担当した、劇場版第4作『クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』のクライマックスのアクションは、名シーンとして語りぐさになっている。 「監督があらかじめ完成像をしっかり描いて、それに近づけていくやり方もあると思います。スタッフの立場になればそのほうがやることが分かりやすいし、自分も今後そういう方法をとることがあるかもしれません。だけど、自分がスタッフの時、そういう形はそんなに面白くなかったんですよね。完成像を押しつけて無理やり合わせていった絵より、その人が出せる精いっぱいのものをできるだけ使って形づくれるなら、それが一番いいと思っています」 「違えば描き直しちゃうほうでしたが、リテイク(やり直し)を出すことも稀にありました。打ち合わせた必要なことが守られていない場合ですね。演出や監督のやりたいことをちゃんと満たしていて、そのうえで自分のやりたいことをちょっとつけ加えるのはオーケーなんです。原画を描く時は、要求されたことを満たすだけでも大変なんですけど、自分がやることであれがついた、これが加わったということがあると、自分がちょっと面白いんです」
アニメーターの仕事は過酷だと言われる。湯浅自身、入社した当初は根を詰めすぎて苦しみ、やめようと考えたこともあった。 「最初は食いぶちを稼ぐためにもスピード第一になりますが、下手でも長くたくさんやっているうちにいつの間にか上達していたりして、少しずつ楽になっていくものだと思います。うまくて速い人は、それほど過酷でもないんですよ。基本的に、止め絵口パクのシーンを描いても、動きの多いシーンを描いても、同じ値段なんです。うまくなれば難しいシーンばかり与えられるので、大変になっていく。それで大変になるような作品には参加せず、ローテクでたくさん描けるものをやればお金は稼げますが、やりがいのある作品でなければモチベーションが下がっていくんです」 「一番はやっぱり、一人ひとりが正当に評価されるようにすることだと思います。仕事の内容としては、最初のハードルは低く、やる気があればいくらでも高く飛べるようにして、そのうえで、例えば、周囲によい影響を与える仕事ぶりとか、ハイクオリティでなくてもコンスタントにたくさん上げるとか、作品に貢献したそれぞれがそれぞれの形で評価されるというふうに。そうすれば、もうちょっと理解しやすい世界になると思います」