スタンフォード大の難病解析プロジェクトで活躍、ソニー「プレステ」がギネス記録の偉業に貢献できた理由
■ 利益が下がっても予算を減らしてはいけない ――PS事業は、今やソニーグループ全体を支える一大事業となっていますが、新たな挑戦をする際にはいくつもの技術に先行投資をしてきたはずです。収益を生まない段階で新たな技術に投資を続ける上では、どのような視点が必要でしょうか。 茶谷 たとえ収益が得られない時期であっても、先行投資の絞り込みは避けるべきでしょう。新規事業の予算の多くは「人への投資」を意味します。収益を生み出さないからといって予算や人員を減らしてしまうと、技術やノウハウを持った人を外部に流出させる結果を招いてしまうからです。 新しいモノを作る際、失敗から得られる「知恵」や「ノウハウ」は言語化されず、そのほとんどは人の頭の中にだけ残っています。ここで人員を削ってしまうとノウハウが途切れることに加えて、当事者のメンバーのみならず社員の士気も低下させます。だからこそ、一度やると決めたら覚悟を決めて、ずっと投資するくらいの気持ちが必要です。 一方、技術には賞味期限があります。技術自体に競争力がないと判断したのであれば、予算を削減せざるを得ないでしょう。技術の価値をしっかりと見極めて、不要な業務はその理由を考えて減らすという心構えが求められます。 ――新たな価値をつくるためには、収益が得られない時期の我慢が鍵というわけですね。 茶谷 日本の企業は一度の失敗で諦めてしまうケースが多いので、もっと積極的に失敗すべきだと思います。例えば、ロケットの打ち上げに失敗した場合、米国であれば「あの高さまで飛んだから良かった」という評価が得られる一方、日本は謝罪が求められる印象があります。アポロ計画も最初は失敗続きだったことを思い出し、「最初からうまくいくわけがない」というサイエンス感覚を持つべきだと思います。 ――新規事業への投資判断やサイエンス感覚など、ここ数十年で日本が忘れてしまったものを取り戻す姿勢が求められるのですね。 茶谷 戦後はモノが不足していたため、皆で作るしかありませんでした。現代の日本はモノが余る時代なので、新しいものを作る余地はないように見えるかもしれません。 しかし、日本はさまざまな課題を抱えています。例えば、少子高齢化によって限界集落や買い物難民が増えているため、それをサポートできる産業をつくる余地があります。少子高齢化はネガティブに捉えられますが、巨大な実験市場と考えることもできるのではないでしょうか。 特に、シニア市場というとヘルスケアや医療分野に目が行きがちですが、60歳から80歳くらいのアクティブシニアを対象に生きがいやQOLを向上させるプロダクトやサービスを考えてみると面白いと思います。そこで作ったプロダクトやサービスを磨き上げ、数十年後にシニア社会になる東南アジアに輸出すれば新しい外貨獲得手段も得られます。 日本は大きなポテンシャルを持った国です。戦後に活躍した人たちのスピリットを学ぶことで、多くの社会課題を解決できるはずです。
三上 佳大