【海外トピックス】テスラが「サイバーキャブ」をお披露目。しかし具体的内容を欠き市場は落胆
わずか20分で終わってしまったイーロン・マスクのプレゼンテーション
テスラは、かねて8月に発表するとしていたロボタクシーを2024年10月10日にハリウッドのワーナーブラザーズの撮影スタジオを借り切ってお披露目しました。車名は「サイバーキャブ(Cybercab)」で2026年に生産を開始し、3万ドル以下の価格で販売を見込みますが、投資家は2年先というタイミングや車両の詳細などが明らかにされなかったことに落胆を示し、翌11日にテスラの株価は9%近く下落しました。“We, Robot”と題されたイベントでは、他に20人乗りの小型シャトルバスの「サイバーバン」や、ヒューマノイドロボット「オプティマス」が登場して参加者をもてなしましたが、サイバーキャブのプロトタイプが公開された以外に、特に新しいニュースはありませんでした。果たしてサイバーキャブは、イーロン・マスク氏の目論見通りテスラに新たなゴールドラッシュを引き起こすのでしょうか。 【写真】テスラ「サイバーキャブ」をもっと見る マスク氏のプレゼンテーションはわずか20分で、その内容も自動運転車は人間のドライバーに比べて5倍も10倍も安全であり、1週間のうちわずか10時間程しか稼働していない自家用車を5倍10倍運行することで、オーナーにはるかに大きな価値をもたらすと従来の主張の繰り返しでした。ライダー(LiDAR)などの高価なセンサーは使わず、AIとカメラのみでレベル4以上の自動運転を行うサイバーキャブは、ドライバー不要で稼働時間も長いことから、1マイルあたり約1ドルのタクシー料金を30~40セントで提供できると見込んでいます。このクルマのオーナーは、複数のサイバーキャブを所有してテスラに貸し付ければ、少なからぬ利益を上げられるというわけです。
パーソナルユースを想定していない
サイバーキャブは2人乗りでハンドルやアクセルペダルがなく、オーナーは自分では運転することができません。現在アメリカでドライバーなしの自動運転車の運行が許可されているのは、カリフォルニア州のサンフランシスコやアリゾナ州のフェニックスなど限られた地域で、しかもウェイモ(Waymo)などの専門のタクシー業者のみです。今後、徐々に運行可能地域が拡大されるとしても、2026年にサイバーキャブが発売された時点では、ほとんどのオーナーは自分のクルマを走らせることが出来ません。購入しても当局の認可を受けた配車サービス業者に貸し出すしかないのです(テスラもその事業を開始します)。サイバーキャブの購入対象者は、クルマを貸し付けて利益を得る個人リース事業者ということになります。 もちろん、テスラのロボタクシー事業が、現在の半分以下の乗車サービス料金を提供できれば市場を席巻することもあり得ますから、そうした事業を有望と考えてサイバーキャブを購入する人もいるでしょう。しかし、地元自治体や住民の理解を得て州政府の認可を取得するのは、先行するカリフォルニア州の例を見てもそう簡単ではありません。昨年秋にサンフランシスコ市で起きたGMが出資する自動運転タクシー「クルーズ」の人身事故で、同社が半年も運行を停止したのは記憶に新しいところです。今回の発表では、マスク氏が規制にどう対応してロボタクシー事業を進めるかその具体的なプランも期待されていましたが、その話は一切ありませんでした。トランプ氏は11月の大統領選に勝利すれば、マスク氏を効率化(efficiency)委員会に任命すると公言していますが、マスク氏はトランプ氏を支持することで、ロボタクシー事業拡大に有利な政策の実現を目論んでいると勘繰りたくもなります。 こうしたわけで、ロボタクシー事業の詳細なプランや、ロボタクシー車両と多くを共有すると見られる25,000ドルのテスラモデルの発表に期待をかけていた投資家やテスラファンが失望したのは無理からぬことです。またマスク氏は、テスラモデル3やモデルYのオーナーは、2025年からOTA(オーバー・ジ・エア)でアップデートされたFSD(フルセルフドライビング)システムで自動運転が可能になると請け負いましたが、個人の車両でレベル3の条件付自動運転が許可されているのは米国ではカリフォルニア州とネバダ州のみで、それも高速道路において時速64キロ以下であり、現状認可されているのはメルセデスベンツSクラスなどに留まります。