「東大の値上げ」学生達が首を傾げる“問題の数々”。値上げの使い道など、疑問を抱く学生は多い
ただでさえ経済的なハードルが高い大学院への進学が、さらに厳しいものになるといった危機感もある。それは文系であればなおさらだ。文系の修士課程への進学を目指している教養学部の4年生は、「今回の値上げはマイナスにしかならない」と指摘する。 「文系の修士課程に進むことと、理系の修士課程に進むことはまったく話が違います。理系の場合は修士課程を修了した後でも、条件のよい就職ができるでしょう。しかし、文系の場合は修士課程への進学が就職にプラスになることはありません。
博士課程に進んで大学に就職したいと思っても、ポストが少なく狭き門となっています。卒業後のキャリア形成が大きく異なるのに、学部と修士課程でこれだけの値上げをするのは、文系の院に進もうと思っている学生にとってはかなり厳しくなります」 ■文系と理系を分けて考える必要 大学院でも文系と理系を比べると、理系のほうが研究費や設備に多額の費用がかかる。にもかかわらず、修士課程の学費が同じで、しかも同様に値上げされることについての抵抗もある。
藤井輝夫総長は、8月に学生向けに公開したメッセージで「財源の多様化を目指す中で、使途が自由で安定的な収入として授業料の値上げも検討せざるをえなかった」と説明。学生から寄せられた「学部や大学院ごとに授業料を変えるべきだ」といった意見に対しては、否定的な考えを示している。このメッセージに対して、前出の4年生は首を傾げる。 「文系と理系を分けては駄目だと、総長がどのようなロジックで言っているのかまったく意味がわかりません。生計を自ら支えている院生は、博士課程だけでなく、修士課程にも一定程度います。文系修士課程の院生に対する支援を拡充するように、今後訴えていきたいと考えています」
東京大学の学費値上げには、検討のプロセスが学生に明かされなかったこと以外にも、不可解な面がある。基盤的な経費である国からの運営費交付金の減少によって財政が厳しくなったと大学側が説明する一方、予算を減らしてきた側の政府が学費の値上げを促していたのだ。 今年3月に開かれた中央教育審議会の「高等教育の在り方に関する特別部会」では、慶応義塾大学の伊藤公平塾長が、国公立大学の学費を年間150万円にすることを提言して各メディアに大きく報じられた。5月16日には、自民党の教育・人材力強化調査会が、国立大学は国際競争力を強化するために、値上げを含む適正な授業料の設定をすべきとの提言をまとめた。