思わずウルッときたドリスのいない「ドリス」、「ザ・ロウ」と「クレージュ」でミニマルについて考える 2025年春夏パリコレ日記Vol.2
極め付けは、Amazonの“キンドル“でお馴染みの電子ペーパーを開発したE Ink社とのコラボレーション。コード化された紙状の素材とレザーを編み込み、バッグの内側にあるボタン1つで色が変わる画期的なプロトタイプまで開発しています。E Ink社によると、ファッション分野での協業は初めてとのこと。ボタン1つでドラスティックにカラーパレットが変わるプロトタイプは、マグリットの作品に通ずる、錯覚を生み出すようなシュールなデザインで、美術館とかに展示されたらウケ間違いなしです。
藪野:そんな新たな取り組みは、いわば「デルヴォー」の未来。それに対して、会場にはブリュッセルに保管されているアーカイブの中から選んだ26点を展示した部屋も。そのデザインを見ると、豊かな歴史やデザインソースがあることが、未来が作っていく力になっているのだと感じました。
「ザ・ロウ」は今季も撮影NG ミニマルの背景にある力強さを感じる
村上:その後、私は「ザ・ロウ(THE ROW)」へ。引き続き、洋服を肉眼で見てほしいとの思いから、会場内では写真も動画も撮影NG。代わりにノートと鉛筆が置いてあるというのは、ニクいですね。
よく「ザ・ロウ」はミニマルなブランドと言われます。最近では「クワイエット・ラグジュアリー」の代表格と捉えられているでしょう。でも私は、それは結果の話であって、アシュリー・オルセン(Ashley Olsen)とメアリー・ケイト・オルセン(Mary-Kate Olsen)姉妹は、決してそれを目指そうと思っていないように感じています。むしろ彼女たちが求めているのは、自由。時に周囲は「そんなカッコするの!?」とビックリするかもしれないけれど、2人は自分たちが着たいものを作っている。そして単純に、ロゴや華美な装飾をあしらった洋服は、着たくないだけ。そんな気がするのです。
今回のコレクションでは、序盤のTシャツとロンTの重ね着スタイルに、そんなアティチュードが現れているように思います。TシャツとロンTと言いましたが、それぞれはおそらくカシミヤで作られている上、シワクチャです。それを本当にTシャツとロンTの感覚で重ね着すると、ラグジュアリーではあるけれど、実に自由な、日常生活に即したスタイルに仕上がるのだと思います。